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社説・コラム

天風録 「復興学」

 失敗は成功のもと。よく知られた格言を日本人は生かしてきただろうか。しくじりは恥だと、学校も企業もうまくいった例だけ教えがちだった。これでは危ないと思ったのが東京大名誉教授の畑村洋太郎さん。10年余り前に「失敗学」を唱えた▲そのころから日本は不測の事態に相次ぎ見舞われる。東海村臨界事故、JR福知山線脱線…。重大ミスから教訓をどう見いだすのか。数々の著書で世に問うた畑村さんは先ごろ、政府の福島第1原発事故の調査・検証委員長に就いた。時代が求める学問になったといえようか▲広島大が始める「放射線災害復興学」もまさにそうだ。福島県などで放射能の不安におびえる住民の心や体をケアし、地域再生に力を尽くす人材を育てる構想である。66年前に惨禍を経験した大学ならではのカリキュラムとなろう▲復興を支える決意を込めたネーミング。心強く思う被災者もいるに違いない。広島で学んだことを生かし、信頼を得る若者たちの姿が早くも目に浮かんでくる。自治体や医療の現場で▲学びの対象は時代を映す。最近は「笑い学」や「生涯現役社会づくり学」なども。地域おこしの願いを託す古里再発見の研究も花盛りだ。未曽有の体験を未来に生かすため、新たな「学」が次々と生まれるかもしれない。

(2011年8月25日朝刊掲載)

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