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社説・コラム

『潮流』 ヒロシマの医師たち

■論説委員 山内雅弥

 東電福島第1原発事故から間もなく半年。地元や避難先に暮らす人たちを不安に陥れているのが、食物などを通じて体内に取り込む内部被曝(ひばく)の影響だろう。

 ヒロシマ、ナガサキの人たちは誰よりも自分たちの苦しみを分かってくれるはず―。そんな期待も大きいようだ。一方で被曝医療の専門家に、住民の一部から不信の目も向けられていると聞く。いわく「低線量被曝を過小評価しているのではないか」と。

 現行の放射線防護基準は広島、長崎の原爆被爆者のデータが基になっている。ただ、線量は初期放射線の外部被曝から算定されたもので、残留放射線による内部被曝は織り込んでいない。

 残留放射線は「無視しても大きな影響はない」とされてきたからだ。とはいえ未解明の部分が多いことは一連の原爆症訴訟判決が指摘している通りといえる。

 広島では既に1950年代、残留放射線の人体影響が地元の医師たちによって指摘されていた。

 その一人に開業医だった故於保(おほ)源作さんがいる。原爆が投下されて2カ月以内に爆心地から1キロ以内に出入りした525人を調査した結果、約半数に発熱や下痢、脱毛などの症状がみられたという。

 故原田東岷さんら医師仲間と研究会を組織し、いち早く被爆者のがん多発を見つけたことでも知られる。占領下から始まる地道な活動が原爆被害を突き止め、被爆者援護へと道を開いた。

 チェルノブイリ原発事故の被災者医療にも広島の医師が一役買う。現地に度々足を運び、子どもの甲状腺がん増加に警鐘を鳴らしたのは甲状腺クリニックを開業する武市宣雄さんである。

 見えない放射線と向き合うフクシマ。脈々と続くヒロシマの医師たちの営みも伝えられたら…。

(2011年8月31日朝刊掲載)

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