×

社説・コラム

社説 放射能除染 安心できる具体策示せ

 野田新政権の緊急課題の一つであろう。福島第1原発事故で、大量に飛び散った放射性物質の除染作業である。

 福島県民は日夜、放射能の恐怖にさらされている。除染に関する政府の基本方針が決まったのは、菅直人首相が退陣表明した日だった。遅きに失した感は否めない。

 しかも方針は具体性に乏しく、急ごしらえした印象すらある。県民が安心できるよう、きめ細かなプランを早急に示すべきだ。

 その上で、一刻も早く作業を軌道に乗せなければならない。とりわけ子どもや妊婦の不安を解消するような手当てが欠かせまい。

 基本方針は「国は責任をもって除染を推進する」と明記している。年間被曝(ひばく)線量が20ミリシーベルトを超える恐れがある計画的避難区域や警戒区域については、国が主体的に除染する。

 一方、年間1~20ミリシーベルトの地域については市町村が除染計画を作成する。国は専門家の派遣や財政支援、測定機器の提供などで全面的に協力するという。

 2年後までに住民の年間被曝線量を半減させるのが目標だ。さらに子どもについては、学校や公園も含めた生活環境を徹底的に除染し、被曝線量を60%減らす。

 長期的には年間線量を1ミリシーベルト以下に抑えるとしている。  とはいえ、方針には不明な点も多い。コストはどれくらいかかるのか、人員確保の目安は…。20ミリシーベルトを超える地域では、自宅に戻れる時期の目安も示せば、希望につながったに違いない。

 目標の実現性にも疑問の声が寄せられている。現地で除染活動に当たる専門家は「年1ミリシーベルトを達成するのはとても困難」と指摘している。実態に即した見直しも要るかもしれない。

 地元からは「被害者である市町村がなぜ除染しなければならないのか」という声も出ている。本来ならば、国が主体的に全エリアの除染に当たるのが筋だろう。

 一方で作業にはスピードが求められる。方法を誤れば汚染の拡大にもつながりかねない。土をはがしたり建物を洗い流したりと、たくさんの人手も要する。地元住民の協力なくしては前に進めない。

 それだけに、国は市町村の負担をできるだけ軽減する配慮を怠ってはなるまい。除染作業の対価を支払い、その費用は東京電力にも負担を求めるべきではないか。

 最も悩ましいのは、はぎ取った土など作業で出た放射性廃棄物の処理問題だ。基本方針には、処分場の確保について国が責任を持って行うとある。

 菅首相は退陣直前に、福島県内に中間貯蔵施設を整備したいとの方針も口にした。知事が困惑するのは当然であろう。

 除染作業を進めれば、汚染物質の仮置き場の問題はコミュニティー単位で付いて回る。

 最終処分地をどこに設け、どんな安全策を講じるのか。具体的に検討し、議論を始めなければならない。問題を先送りにしては、混乱を広げるだけだ。

(2011年9月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ