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社説・コラム

社説 新政権のエネ政策 脱原発への議論深めよ

 野田佳彦首相が就任会見で、「脱原発依存」路線を継承する方針を示した。

 当面、定期検査で停止中の原発は安全性を確認した上で再稼働させる。一方、寿命がきた原発は廃炉にするという。新規の建設は難しいだろうとの認識も示した。

 大筋の方向として妥当であろう。菅直人前政権の脱原発依存は首相一人の言いっ放しに終わった観もある。その教訓を踏まえ、新政権は中長期の着実な計画づくりへ議論を深めてもらいたい。

 原発・エネルギー政策について野田首相が会見で述べた内容は主に4点に絞られよう。

 まず定期検査中の原発については「安全性をきっちり確保しながら再稼働させる」とした。

 現在、地震や津波、全電源喪失への耐性を測るストレステストが実施されている。ところが経済産業省の原子力安全・保安院は来年3月末で解体される。テスト結果の判定は4月以降、環境省の外局として新設される原子力安全庁が受け継ぐことになる。

 問題は、それまでに再稼働させる場合だ。首相が懸念する通り、保安院が最終判断するのでは国民の信頼は得られまい。ここは細野豪志環境相兼原発事故担当相も言うように、国際原子力機関(IAEA)などを含めた第三者の意見を十分に聞くべきであろう。

 もちろん地元の合意が再稼働の大前提となる。ストレステストの結果について政府は丁寧で分かりやすい説明を尽くす必要がある。

 2点目は「廃炉」だ。もともと原発の運転期間は30~40年と想定されてきた。しかし点検を重ねながら長期稼働させている。

 実際には福島第1原発を含めた国内54基の商業炉のうち、3基は運転開始から40年、16基は30年を超えた。さらに今後10年間で18基が30年を超える。

 政府は炉の寿命について一定の目安を示すべきだ。解体処分のための技術確立も急ぐ必要がある。

 3点目は「新たに原発をつくるのは現実的に困難だろう」との発言である。ただ首相は個別の場所には触れなかった。

 中国地方では、島根原発3号機(松江市)のようにほぼ完成した原子炉もあれば、上関原発(山口県上関町)では本格着工がこれからの段階。個別の新増設について政府が早急に方針を示さなければ地元の戸惑いは膨らむ一方だ。

 最後に首相は「将来的な脱原発依存に向け、エネルギー基本計画をつくる」とし、再生可能エネルギーを推進する方針を示した。政府は電力の需給予測も踏まえ、エネルギー政策全般のマスタープランを描き直す必要があろう。

 首相が触れなかったことも少なくない。例えば、原発の使用済み燃料を再処理して再び燃料とする核燃料サイクルや、高速増殖炉原型炉もんじゅの取り扱いだ。

 脱原発依存を図るなら、これらも中止や凍結を視野に入れるべきではないか。その膨大な費用や技術陣を、廃炉や放射性廃棄物の処理問題に振り向ければいい。

(2011年9月4日朝刊掲載)

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