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社説・コラム

社説 武器使用の緩和発言 見過ごせぬ「前のめり」

 民主党の前原誠司政調会長が米ワシントンで講演し、自衛隊の武器使用基準を緩和すべきだとの見解を示した。

 国連平和維持活動(PKO)で一緒に行動する他国の部隊が攻撃された場合、自衛隊員が武器を使って反撃することを認めようとの趣旨だ。

 PKOを通じ、より積極的に国際貢献したいとの決意表明ではあろう。しかしこれは、憲法が禁じている海外での武力行使や集団的自衛権の行使に触れかねない。

 国民の合意を踏まえていないことは明らかだ。しかも政策に関する権限が集中する党政調会長に就任したばかり。いささか行き過ぎた「前のめり」発言ではないか。

 一川保夫防衛相は早速、武器使用緩和に慎重な姿勢を示した。今回の発言が足元の政府与党内でも議論を呼ぶのは必至だろう。

 「専守防衛」とされてきた自衛隊だが、海外への進出が増えるにつれ、武器の携行や使用が徐々に拡大しつつある。

 現行のPKO協力法や自衛隊法は、「自衛官の管理下」にある他国の部隊や民間人の防衛に際しては「必要最小限」の武力の使用を認めている。

 さらに2009年6月に成立した海賊対処法は、日本と無関係の外国船も警護対象とし、警告しても民間船に接近してくる海賊船に対しては射撃を容認した。

 当時野党だった民主党は事前の国会承認などを求めて法案に反対したはずだ。ところが政権に就いてからは法改正に動くわけでもなく、ソマリア沖への自衛艦派遣の1年延長を繰り返している。

 こうした状況下での前原氏の発言である。武力行使も前提に、重装備した隊員が海外へと出向く。派遣先や周辺が「自衛隊が戦争をしに来た」と受け止め、かえって緊張が高まる恐れもあろう。

 前原氏は、武器輸出三原則の見直しも唱えた。日本の防衛産業の国際競争力を高めることなどが理由のようだが、こちらも見過ごせない発言だ。

 日本は共産圏をはじめ武器輸出を全面的に禁じてきた。だが東西冷戦が終わり、運用面で「なし崩し」が出始めた。自公連立政権は04年、米国と共同開発したミサイルの第三国輸出を認めている。

 昨年末に策定された新しい防衛大綱も、当初は三原則を見直すとの文言を盛り込む予定だった。社民党が猛烈に反対して土壇場でキャンセルされたが、政府与党内に防衛産業の成長を重視する考えが根強いのは間違いなさそうだ。

 これらに加え前原氏は、米国の国力が低下しているとの認識からその影響力が薄い地域の安定に日本が寄与する考えも示唆した。  普天間問題でぎくしゃくした日米同盟を立て直したい。そうした野田佳彦首相の意向をくんだ発言とみられる。

 とはいえハイチ地震へのPKO派遣のように、武力によらない国際貢献の道はさまざまにあろう。米国に追従するあまり、平和外交の針路を見誤ってはならない。

(2011年9月9日朝刊掲載)

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