×

社説・コラム

社説 9・11から10年 テロ生む憎悪 断ち切れ

 約3千人が犠牲となった米中枢同時テロからあすで10年になる。高層ビルに旅客機が突っ込んだ9・11を機に、その後の世界は一変してしまった。

 当時のブッシュ米政権は強大な軍事力を頼みに、テロ組織をかくまっていたアフガニスタンに戦争を仕掛けた。次いで、大量破壊兵器の開発疑惑を大義に、イラクに膨大な兵員を送り込んだ。

 だがアフガンは泥沼化し、今も戦火が絶えない。イラクも爆破テロが続き、治安は不安定なまま。二つの戦争の犠牲者は、兵と民間人を合わせ25万人余りとされる。

 決してテロは許されるものではない。だが、力による抑え込みは結局、憎悪の連鎖を招いただけではないか。

 米国の「テロとの戦い」と、それに同調した諸国に対し、アラブ人、イスラム教徒たちが抱いた敵意はまだ消えていないようだ。

 2005年のロンドン同時テロにしても、英国内で生まれ育ったイスラム教徒による事件だった。警戒をいくら強めても、民衆の心までは取り締まれない。

 今年5月、同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍によって殺害された。だが国際テロ組織アルカイダのリーダーがいなくなっても、第2、第3のビンラディンが生まれる根っこは残っている。

 この10年間、私たちが学んだのは「理想」を振りかざし、他者を敵視することの愚かさではないか。「敵か味方か」の強引な分け方はイスラム教徒へのいわれのない差別と偏見をもたらしている。

 テロリストとの対話による相互理解は難しいかもしれない。だが憎しみを生む土壌を変えていかなければ、テロはなくなるまい。  国家同士の関係も変わっている。二つの戦争で米国は疲弊し、「唯一の超大国」の地位は揺らいだ。国境を超えた連合を目指す欧州では、一部の国の財政悪化が足並みを乱す要因となっている。

 新興国は経済力をてこに勢いづいたが、世界同時不況の影が再び忍び寄る。中国の軍備拡張は地域の安定にとって最大の懸念だ。  多極化が進む世界だけに、一国主義に陥らず、互いを尊重し、協調を強めるしかなさそうだ。

 そうした中で、日本の姿はどうだろうか。国連決議に基づかない米国のイラク戦争を全面支持した。その検証や反省が不十分なままでは、中東諸国の信頼獲得さえおぼつかない。

 その中東では今年に入り、エジプトなどで「アラブの春」と呼ばれる独裁政権打倒のうねりが一気に高まった。

 新政権が安定しなければ、テロの温床になりかねない不安が残る。民主化が後戻りしないよう、日本をはじめ主要国の支援が求められよう。

 テロを生む土壌に横たわるのは人種差別、飢餓や貧困、そして経済格差の問題であろう。そこから目をそらさず、解決に向けて地道な営みをどう築くか。それこそがテロとの闘いにほかなるまい。

(2011年9月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ