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社説・コラム

天風録 「暑いのに秋の月」

 朝晩の涼しさに慣れた体に、日中の強烈な日差しは何だか痛い。そう感じている人もおられよう。近所に咲いていたアサガオも猛暑の戻りに驚いたのだろうか。長らく朝の散歩を楽しませてくれたのに、とうとうツルを枯らしたようだ▲奈良時代の万葉集で「秋の七草」の一つに詠まれた朝貌(あさがお)。ところが山上憶良がめでたのは今のアサガオではなく、実はキキョウだったとの説がもっぱらだ。ただ中身が入れ替わったとしても不思議ではなかろう。どちらも花の色は澄んだ青空を思わせ、ともに秋の季語である▲こちらの交代劇は風流とは程遠い。「放射能をうつす」の問題発言で辞任した鉢呂吉雄氏に代わり、経済産業相に任じられたのは枝野幸男氏。前官房長官として先日まで、大粒の汗をかきながら記者会見に臨んでいた。さながら夏が戻ってきた感もある人選だ▲とはいえ相次ぐ閣僚の失言は、季節感などお構いなしの年中行事にも思えてくる。枝野氏は、そつない答弁ぶりも買われたのだろう。政治家の言葉が軽くては、原発事故の風評被害も到底抑えられまい▲昨夜は中秋の名月だった。広島市内でも、分厚い雲が途切れると大きな月が現れ、昼間にほてった大地を爽やかに照らしてくれた。まるで「これぞ適材適所」と言わんばかりに。

(2011年9月13日朝刊掲載)

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