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社説・コラム

社説 国連の原発報告書 安全強化へ国際協力を

 福島第1原発の事故を受け、国連が原子力安全に関する初の包括的な報告書をまとめた。

 大津波に見舞われ、全電源喪失という異常事態に陥った福島の事故については、事前の想定が「甘すぎた」と厳しく指摘している。政府や東京電力はあらためて、その責任を肝に銘じてもらいたい。

 フランスの核関連施設でも爆発事故が起きたばかり。平時のチェック体制強化、万一の場合の放射能封じ込めなど、各国は安全を高める自前の努力にとどめず、国際協力も確実に進めていくべきだ。

 報告書は世界中の全ての原発に対し、事故の危険性についての想定を見直すべきだとした。

 国際原子力機関(IAEA)には、放射線量が即時に観測できる地球規模のシステム構築を求めた。既に世界各地には包括的核実験禁止条約(CTBT)のための観測網が張り巡らせてある。日本も含め各国は、技術やデータの提供で協力が求められよう。

 報告書の内容でとりわけ注目されるのは、国や民間企業に対し「大事故による環境、社会、経済的な影響」も原発のコスト計算に含めるべきだと指摘した点だ。

 一般的な安全管理経費に加え、事故の処理経費も想定すれば桁違いにコストは膨らむ。抵抗する国もあるだろう。だが福島の現実を見れば、そうは言っておれまい。

 一方で気になるのは、報告書が原発を「今後も重要なエネルギー源」と結論づけたことだ。貧困層への電力供給、地球温暖化を促進する二酸化炭素の削減をその理由に挙げている。

 しかし脱原発を求める国際世論を軽視すべきではなかろう。核物質を制御する困難さ、天然ウラン資源の限りある埋蔵量などを考えれば、原発は中長期的には過渡的なエネルギーにほかなるまい。国際社会は地球環境を意識するなら、再生可能エネルギーの普及促進にも本腰を入れるべきだ。

 国連の報告書に先立ち、関係機関であるIAEA理事会も先頃、世界の原発の安全強化を目指す行動計画を採択した。3年以内に、全ての原発保有国に安全調査チームを派遣するのがポイントだ。

 天野之弥事務局長は当初、「抜き打ち調査」も目指したが、反発する新興国に米国も同調。結局は「各国が調査を自発的に受け入れる」との表現で落ち着いた。

 とはいえ、ひとたび重大事故が起きれば放射能の脅威は世界規模で広がる。国際的な安全監視強化への及び腰は理解しにくい。  旺盛な電力需要を背景に、新興国などは原発の新増設へとかじを戻しつつある。一方、脱原発へと転じたドイツやスイスなどは安全確保のために、より厳格な国際間の取り決めが必要と主張する。

 チェルノブイリ原発事故を教訓に生まれた原子力安全条約は、原発の規制当局の充実や独立を求める。ただ安全管理は基本的に各国の裁量に委ね、強制力はない。

 IAEAの抜き打ち調査権を認めるなど、国際社会は条約改正の議論を始めるときだ。

(2011年9月16日朝刊掲載)

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