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社説・コラム

社説 原発輸出の継続表明 見切り発車でいいのか

 野田佳彦首相は、原発輸出を続ける考えを国連の原子力安全首脳会合で表明した。福島第1原発事故の検証も済んでいないのに、ずいぶん踏み込んだ内容である。

 新興国などと原子力協定を結び、発電施設や技術を輸出する「原発ビジネス」。福島の事故までは、民主党政権が成長戦略の柱に位置付けていた。そこから撤退すれば経済再生に支障が出るとの懸念が念頭にあるようだ。

 発言の前段で首相は、「原発の安全性を最高水準に高める」と述べた。事故で傷ついた日本の技術力の信頼回復をアピールした上で、ビジネスを推し進めようという意図も透けて見える。

 しかし安全性の確保という点から見ても見切り発車と言わざるを得ない。そもそも第三者機関「事故調査・検証委員会」による検証作業を終えなければ、原発の安全対策は確立できないはずだ。

 推進とチェックの機能が経済産業省内に同居するいびつな仕組みはまだ続いている。原発輸出についても、環境省の外局として来春設置される原子力安全庁で安全審査をすべきではないか。

 首相は就任からまだ3週間だが、原発に関する発言内容はかなり変わってきた。

 就任会見では、「将来的な脱原子力依存が基本的な流れ」と明言。菅直人前首相の脱原発路線を受け継ぐ方向性をにじませた。

 ところが10日後の所信表明では「『脱原発』と『推進』という二項対立でとらえるのは不毛だ」と述べ、前首相と一線を画した。

 国連演説は軌道修正をさらに鮮明にさせたといえる。

 この間、何があったのか。国会で突っ込んだ議論はなく、重要な政策変更が国民に見えない所で進められている印象は拭えない。

 首相が協力関係を築こうとしている経済界の要望に配慮したのは間違いなかろう。原発輸出を推進する官僚の発言力も首相交代で再び強くなったのではないか。

 政府内には、ヨルダン、ベトナムなど4カ国との原子力協定締結に向け、国会承認を求める動きもあるようだ。

 脱原発にかじを切る国がある一方で、原発依存の考えは国際社会でまだ根強い。国連が首脳会合の前に公表した原子力安全報告書も、貧困克服の観点から安全強化を前提に原発維持を打ち出した。こうした流れに首相が呼応した可能性もある。

 会合の総括で潘基文(バンキムン)事務総長は原子力のあらゆる分野の透明性を確保する姿勢を示した。信頼確立のために欠かせぬ観点だろう。

 野田首相は演説で、中長期的なエネルギー構成について「来夏をめどに具体的な戦略と計画を示す」とも述べた。原発事故の当事国として、事故の検証結果だけでなく、エネルギー政策見直しのプロセスも開示すべきである。

 原子力に頼らない再生可能エネルギーの開発で成長戦略を描くことも含め、国民的な議論を興す必要がある。それこそが信頼回復の近道ではないか。

(2011年9月24日朝刊掲載)

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