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社説・コラム

社説 上関町長選 「自立」への道どう探る

 原発計画の推進派が9連勝し、得票率でも反対派を大きく上回った山口県上関町長選。推進の民意は固そうに見える。だが、内実はそうとも言い切れないようだ。

 「推進派からは、福島のフの字も聞こえてこなかった」。不満そうに選挙戦を振り返る有権者もいる。正面切っての論争が遠ざけられたのは残念である。

 原発誘致の表明から29年。2018年春の営業運転に向け、来年6月に本体着工を控えていた。

 福島第1原発の事故で一転、工事にストップがかかった。交付金が途切れるかもしれず、ここは町政の実績がある人に…。そんな思いから推進派以外でも現職に票を投じたことが、本紙の出口調査の分析からうかがえる。

 当選を決めた柏原重海町長が万歳を控えたのも、転換期を担う重責を意識してのことだろう。「原発ありき」一辺倒のまちづくりから脱皮し、住民とともに持続可能な自立の道を探ってもらいたい。

 町に落ちた原発関連の交付金は、これまでだけで約45億円に達している。加えて中国電力からの寄付金は24億円に上る。それらを抜きにすれば、税収はわずか2億円。高齢化率50%に届きそうな過疎地の先行きを、危ぶまない人はいないだろう。

 しかし野田佳彦首相が「原発の新規建設は現実的に困難」と述べたように、上関原発の行く手は閉ざされつつある。さらに国はエネルギー基本計画を「白紙から見直す」としている。脱原発依存を目指す政府の将来方針が、すぐさま後戻りすることはなさそうだ。

 近隣自治体の懸念も無視できない。上関原発の予定地から30キロ圏内の市町議会は相次ぎ建設計画の「中止」や「凍結」の意見書を可決した。県知事も海面埋め立て免許を更新しない方針でいる。

 国の最終判断を待たずとも、現地はもう発想を切り替えていく頃合いではないだろうか。

 柏原町長は3期目の課題に、まちづくりビジョンの検討を掲げる。「原発抜き」の事態も織り込む構えという。ただ町執行部と議員にコンサルタントを交えただけの検討では、主役であるはずの住民が置き去りにされかねない。

 ちょうど町の構想に呼応する形で、町民の間にも地域の将来像を話し合う動きがあるようだ。絵に描いた餅とならぬよう、住民意見を町のビジョンにも反映させていく工夫が求められよう。

 問題は、住民の総意と力を結集できるかどうかだ。古里に住む愛着や誇りという、まちづくりの原点に立ち戻るほかあるまい。

 原発の賛否で地域が割れ、親子の間にさえひびが入ったケースも珍しくないという。そうした現状について、国や電力会社はどう認識しているのだろうか。

 この30年で人口は半減した。ところが、町民が腹を割ってその対策を議論する場が持てないまま、今に至っている。厳しい道のりに違いなかろうが、今度こそ、交付金頼みの地域のあり方を見直すきっかけとしなければなるまい。

(2011年9月28日朝刊掲載)

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