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社説・コラム

『潮流』 核なき世界は「理想」か

 「彼とは仕事ができる」。オバマ米大統領は野田佳彦首相と相対した印象をそう語ったという。

 リーダーが評価されるのは国民として喜ばしい。だが首脳会談の2日後、国連総会での首相のスピーチには物足りなさが残った。

 「核兵器のない世界という理想の実現に向けて、軍縮・不拡散イニシアチブの取り組みなどを通じ、全力を尽くします」

 北朝鮮への言及を除き、核兵器関連はこれだけ。世界の核情勢の冷静な分析も、核保有国への注文もない。被爆体験を伝えようとの使命も感じられなかった。

 同じ演壇に立った先輩と比べると、落差は激しい。

 昨年の菅直人前首相は「核なき世界に向けて行動する道義的責任がある」と明言した。「保有国と非保有国の懸け橋となって核軍縮の促進役に」と決意を語ったのは一昨年の鳩山由紀夫元首相だ。

 政治家の言葉は重い。とりわけ国家間の信頼関係に直結する外交舞台では、言いっ放しは許されまい。この2人は言葉に行動が伴わず、海外からも「回転ドア」とやゆされる首相交代劇が続く。

 淡泊な演説は、先輩を反面教師にしたためか。それとも草稿を書いたのが、実は…。

 「やはり」と思わせるニュースが飛び出した。ウィキリークスが暴いた米外交公電である。2年前のオバマ大統領の初来日に向け、当時の日本の外務事務次官が駐日米大使に「大統領の広島訪問は時期尚早」と伝えていたという。

 大統領が被爆の惨状に触れれば心は揺さぶられるに違いない。そうした市民の願いに水を差す官僚の振る舞いはもっての外だ。

 核超大国と被爆国が手を携えて取り組む仕事とは何か。少なくとも、核兵器廃絶を「理想」と遠ざけることではないはずだ。(論説副主幹 江種則貴)

(2011年9月28日朝刊掲載)

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