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社説・コラム

社説 東電経営の調査報告 賠償責任全うするには

 福島第1原発事故の賠償資金を捻出するため、東京電力の資産売却や経費削減を検討してきた政府の第三者委員会が、最終報告書をまとめた。

 何より被災者への賠償を手厚くすることが最優先であり、東電の救済が目的ではない。徹底した経営合理化を突き付けた点は妥当といえよう。

 東電に迫ったコスト削減額は今後10年間で計2兆5千億円余り。東電が当初計画した額の2倍を超えている。

 スリム化の柱となる人員削減はグループ全体で7400人とするよう求め、企業年金も現役社員にとどまらず退職者も引き下げるよう促した。

 一方、原発事故の賠償額については当面のものだけで約4兆5千億円と試算した。さらに1~4号機の廃炉に約1兆1500億円かかるとみている。来年夏に新潟県の柏崎刈羽原発を再稼働しても資金不足に陥る見込みだ。

 このため報告書は、東電の計画を上回る約7千億円の不動産や事業の売却を求め、経営陣の辞任や退任にも言及している。

 東電の役員報酬や社員給与については先月下旬、枝野幸男経済産業相が「公務員並みで当たり前」と述べた。これに対し、経団連の米倉弘昌会長は「要求が一方的過ぎる」と批判している。東電の擁護に終始する姿勢では、国民の感覚からかけ離れてしまう。

 報告書を基に、東電は原子力損害賠償支援機構とともに特別事業計画をまとめ、今月末にも経産省に提出する。承認されれば賠償の原資が不足しないよう、公的資金が投入されることになる。

 公的な援助を受ける以上、東電と機構は追加のコスト削減策も真剣に追求すべきである。

 その意味で、報告書が現状の電気料金制度の問題点を指摘したのは当然といえる。

 電気事業法が定める「総括原価方式」である。人件費、燃料費、修繕費などのコストに一定の利益を上乗せして、電気料金を算定する仕組みだ。

 電力の安定供給のためとはいえ、コスト削減の意識が希薄となる弊害は否めないだろう。

 報告書は、この見積もり方式により、10年間で実際の費用を6千億円近く上回ったと分析。寄付金、オール電化推進費や広告宣伝費は原価から外すべきだとした。

 枝野経産相もきのう、こうした見直しをすべての電力会社に求めていく考えを示した。報告書が求めるように、電気料金が適正かどうかを第三者が確認する仕組みも必要となろう。

 地域独占が長く続く電力業界は「ぬるま湯」に漬かってきたといえないか。日本の電力は諸外国より割高との指摘もある。

 「まず存続ありき」との硬直的な発想では、東電の経営見直しはおぼつかないだろう。発送電の分離など競争原理の導入も検討すべきだ。業界を挙げて抜本的な体質改善を図ってもらいたい。

(2011年10月5日朝刊掲載)

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