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社説・コラム

社説 福島県の甲状腺検査 不安拭う体制づくりを

 福島第1原発の事故が起きた時、18歳以下だった福島県内の子どもは約36万人いる。その全員を対象に県が甲状腺検査を始めた。生涯にわたる大がかりな追跡は、世界でも例がないという。

 食べ物を通して放射性ヨウ素が体内に取り込まれた場合、喉の付近にある甲状腺にたまりやすい。とりわけ子どものリスクは大きく、1986年のチェルノブイリ原発事故でも子どもの甲状腺がんが多発している。

 わが子は大丈夫なのか―と福島の保護者が気をもむのは当然だろう。健康不安を拭うとともに早期発見、早期治療の体制に万全を期してもらいたい。

 今回の検査は超音波を使い、異常が見つかれば血液や細胞も調べる。まず2014年春までに自治体単位で県内を一巡し、その後は2年ごと、20歳を過ぎれば5年ごとに検査を繰り返す。

 チェルノブイリでは、放射性物質に汚染された牛乳など食物の出荷制限が取られなかった。甲状腺被曝(ひばく)の被害を無為に広げた負の教訓といえる。

 その点、福島では原乳などがいち早く出荷停止となった。「子どもの甲状腺がんは福島ではまず起きない」とみる専門家もいる。

 だが、第1原発から飛び散った放射性物質のヨウ素131は広島原爆の約2・5個分と国は見積もる。事故直後に原発近くの地域で国と県が子ども約千人を検査したところ、基準値を上回るケースこそ無かったものの、半数近くに甲状腺被曝が認められた。

 福島県以外の関東各地でも放射線量の数値が局所的に高い「ホットスポット」が見つかっている。県だけの対応では限界があるに違いない。国は財政的な支援はもとより、健康管理の体制づくりにも目配りする必要がある。

 福島県の検査にしても、県外での追跡態勢については立ち遅れぎみのようだ。進学や就職で今後、古里を離れる若者が出てこよう。そんな場合でも行く先々で身近に無料検診を受けられる仕組みが欠かせない。

 広島や長崎では行政や医師会、大学などが官民一体で組織をつくるなどして被爆者医療を担ってきた。「どこにいても被爆者」を理念に国内外を問わず、支援の手を広げてきた。そうしたノウハウは福島でも生かせる。

 一方で、福島県民のプライバシー保護を忘れるべきではなかろう。検査を受けることで、万が一にも「甲状腺がん予備軍」などとみられないよう、十二分な配慮が望まれる。

 福島県知事が「四重苦」と表現するように、県民は地震、津波、原発に加え、風評被害にさいなまれ続けている。この上、偏見や差別を背負わせてはならない。

 戦後、人生の折節で心ない言動に苦しめられた被爆者は、健康面だけでなく、心にも大きな痛手を負ってきた。決して繰り返してはなるまい。それもまた、広島・長崎の教訓である。

(2011年10月12日朝刊掲載)

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