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社説・コラム

社説 新聞週間 伝える使命 原点忘れず

 東日本大震災と福島第1原発の事故は、危機に際しての報道のあり方を問いかけた。きょうから「新聞週間」。私たちは被災者に寄り添う使命の重みを自覚する。

 被災地では生存者の名前を丹念に掲載した新聞があった。被災者のもとに真っ先に、家族や知人の安否を知らせたかったからだ。記者が1カ所ずつ避難所を回って名簿を写し、震災10日後までに計5万人分を載せたという。

 津波で輪転機が動かなくなった新聞もあった。フェルトペンで手書きした壁新聞を張り出した。避難所に欠かさず朝刊を届けた新聞社も少なくない。

 つらい記憶を読者と共有し、地域のあすへの希望を一緒に探していく。地方紙の原点をかみしめる日々となった。

 本紙は連載「フクシマとヒロシマ」を始めた。被爆者医療で培った広島の蓄積を福島につなげたいと考えている。

 一方で、苦い自省を伴った場面も少なくない。とりわけ原発をめぐる報道である。

 先ごろ名古屋市で開かれたマスコミ倫理懇談会の全国大会でも、政府や電力会社の情報隠しを見抜く力が新聞にあるのかどうか、疑問を投げ掛ける声が出た。

 事故で漏れた放射性物質の広がりを予測する国のシステム「SPEEDI」。そのデータを報道したのが2週間近く後になったのが典型だろう。

 被曝(ひばく)を避けようとする住民が逆に濃度が高い地域へ逃げたり、避難が遅れたりするケースに結びついてしまった。

 政府の公表が遅れに遅れたとはいえ、いち早く公開を迫るべきだった。率直に反省するほかない。

 原発の「安全神話」をうのみにしていたのではないか。そうした批判に対しても、誠実に耳を傾けなければならない。

 一日も早い震災からの復興と原発事故の収束に向け、今後も被災者の目線に立った報道を続けていくしかないだろう。

 その上で問われるのは、災害に備える「防災」報道であり、事故を未然に防ぐ「予防」報道といえよう。日ごろから丹念に、大津波の可能性や原子力行政の不備を指摘していく姿勢が求められる。

 いかに被害を少なくするか。「減災」報道の深化も課題だ。中国地方でも相次ぐ豪雨禍など過去の災害例を一つ一つ掘り起こし、最新の防災知識を紹介するなど、取り組むべきテーマは尽きまい。

 「上を向く 力をくれた 記事がある」。今回の新聞週間の代表標語だ。誰もが安心して前向きに生きていく社会をつくるため、地域とともに歩んでいきたい。

 国内外の情勢はめまぐるしく動く。インターネットが一層普及し、メディアを取り巻く環境は大きく変わりつつある。

 そんな中でも、正確な情報をいち早く読者に伝えるのが私たちの原点。忘れるわけにはいかない。日々の研さんを重ね、報道機関の使命を全うしたい。

(2011年10月15日朝刊掲載)

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