×

社説・コラム

社説 辺野古移設 日米合意 仕切り直しを

 沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題で、日本政府が新たな動きに出た。名護市辺野古に移す日米合意を踏まえ、年内に環境影響評価書を県に提出するという。

 しかし多くの県民は移設計画を拒否している。地元への配慮を欠いた「ごり押し」を積み重ねても決着は遠のくばかりだ。

 むしろ政府は沖縄の民意をくみ、日米合意の白紙撤回も視野に入れて仕切り直すべきである。

 基地移転が辺野古周辺の環境にどう影響するか。評価書はアセスメント結果を取りまとめる。

 仲井真弘多知事が内容に意見を出せば、修正などを加える。その上で海面埋め立て免許を知事に申請する段取りのようだ。

 ここにきて政府が動きだしたのは、米国にせかされたためとみられる。米議会は普天間問題の足踏みを理由に、連動する沖縄の海兵隊のグアム移転経費の支出に難色を示している。先月の首脳会談でオバマ大統領が野田佳彦首相に「進展」を求めたのも、議会対策の一環とされる。

 しかし米国の顔色をうかがう姿勢に地元は反発を強めている。評価書はできても知事が埋め立てを認めなければ、移設は頓挫する。市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性も放置されかねない。

 政府は、そうした結末を予測しながら事を進めているようにもみえる。「沖縄のせいで進まない」と責任を地元に押しつけるやり方だと批判されても仕方なかろう。

 事態がこじれた責任はむしろ民主党政権の側にある。「最低でも県外」と鳩山由紀夫元首相は断言したが、結局は言いっ放しに終わった。その後も地元の頭越しに政府間交渉は進み、辺野古への移設という元の計画に戻っている。

 気になるのは、開発段階で墜落事故が相次いだ垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて、一川保夫防衛相が「アセスに含める」意向を明言したことだ。

 普天間に配備されるのは来年の予定で、多くの県民は反対している。そもそも実機がないまま騒音の影響を測れるのだろうか。

 一方、財政難にあえぐ米国は国防予算を向こう10年間で4500億ドル(約35兆円)減らす計画。米議会には追加削減を求める声もある。上院の有力議員が普天間の米軍嘉手納基地への統合を提案するのも財政事情が理由の一つだ。

 日本政府も実現の見込みが薄い辺野古移設に時間やコストを浪費する余裕はないはずである。何より地元の意向を無視する不毛なやり方を続けてはならない。

 沖縄の米軍基地を減らし、抜本的な負担軽減をどう実現するか。米軍の戦略を追認するだけではなく、東アジアの情勢を踏まえて主体的に提言していく格好の機会と捉えるべきだ。

 近くパネッタ米国防長官が来日する。来月には日米首脳会談も予定されている。野田政権には、あくまで県外移設という沖縄の民意を踏まえた対応を求めたい。

(2011年10月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ