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社説・コラム

『潮流』 原爆投下めぐり公論を

■平和メディアセンター編集部長 西本雅実

 米大統領の原爆投下への謝罪について、「こだわらない」と広島市の松井一実市長が記者会見で述べた。厚生労働省の官僚から転じて半年。いまだに霞が関の決まりにとらわれているのだろうか。

 政府は2007年、閣議で「米国に謝罪を求めるよりも、核軍縮努力を積み重ねていく」と決めている。米国の原爆投下を当時の防衛相が「しょうがない」と発言し、辞任したのを受けた決定だった。

 先月、オバマ米大統領の初来日を控えた09年の外務事務次官の発言が、米外交公電から明らかになった。この閣議決定を考えれば、ふに落ちる内容である。

 事務次官は、広島訪問を期待する世論の高まりを日米両政府は抑えなければならないとし、謝罪のための訪問に否定的な見解を駐日米大使に伝えたという。

 被爆地の長と外務官僚トップの軌を一にするような発言に、行政のあしき継続性をみる思いがする。それはまさに、占領下に端を発した思想に違いあるまい。

 対日講和条約の発効で主権を回復した翌1953年の外交文書もそうだった。

 新藤兼人監督が郷里広島で撮った「原爆の子」のカンヌ映画祭出品をめぐり、当時の外務省は「政治的意図をもってする宣伝への悪用等につき、(作品は)相当問題がある」と在フランス大使館へ受賞妨害工作を指示していた。米国への配慮とされる。

 「非人道的兵器の使用を放棄することを厳重に要求する」。政府が原爆投下に対し米国に抗議したのは敗戦間際の45年8月10日であり、今に至るもそれきりだ。

 日米同盟を基軸というなら、真に闊達(かったつ)な「公論」をすればいい。

(2011年10月21日朝刊掲載)

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