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社説・コラム

社説 原発防災域の拡大 福島の教訓生かさねば

 原発事故に備える防災対策の重点区域を原子力安全委員会が見直す。原発から半径8~10キロ圏内としてきた目安を半径約30キロにまで広げるという。

 福島第1原発周辺の被害実態を受けてのことだ。同じような重大事故が全国どこでも起こり得るという前提に立ったといえる。

 重点区域の自治体は全国で現在の44から135に増える。中国地方の島根原発では松江の1市から島根、鳥取県にまたがる6市に。県都で唯一、原発を抱える松江市がすっぽり入る圏域の人口は従来の5倍以上の約46万人に及ぶ。

 雲南市など新しく対象となる所はおしなべて肯定的な受け止めのようだ。安全協定の締結や原発の再稼働をめぐって発言力が増すからだろう。実効ある原発防災に向け、連携を強めてもらいたい。

 ただ今回の設定区域は目安とはいえ、いかにもコンパスを当てただけの印象が否めない。

 何より被害が同心円状に広がるとの想定が機械的だ。福島では原子炉建屋の水素爆発などで散った大量の放射性セシウムやヨウ素が風に乗り、雨に交じって80キロ以上先にも降下している。

 きめ細かく放射線を監視する態勢が欠かせない。福島県は全市町村に監視装置モニタリングポストの配備を決めている。参考とすべきだろう。

 全国一の高齢県である島根には「避難弱者」も多い。20キロ圏だけでも要介護者は施設に約4500人、在宅では1万人をゆうに超える。加えて病院は約3500床の入院患者を抱える。

 住民避難にはバスを使う想定のようだが、地元にある台数だけで到底足りるはずがない。冬なら雪で陸路が寸断される恐れも当然予想される。

 そもそも県庁や松江市役所が原発から約9キロと近い。いざというときに職員が退避しながら、一方で国との連絡や市町村への避難指示をこなせるだろうか。

 今回の見直し案では安定ヨウ素剤を配備しておく半径50キロ圏を新たに設けた。内部被曝(ひばく)の影響を避けるため事故直後に飲むものだ。福島でも事前に用意してあったが、国による服用指示が3日間滞って全く役に立たなかった。国頼みのツケが回ったといえよう。

 この際、自治体や地域、そして住民が主導する避難への転換を考えなくてはなるまい。

 原子力安全委は今後、避難や屋内退避の基準となる放射線量を決め、来春をめどに中間報告をまとめるという。

 いざというときの避難を妨げる障壁には何があるのか。わが身、わが地域に引きつけて徹底的に洗い直し、国にもどしどし注文していくべきだろう。

 検証の土台となるのはやはり福島の経験にほかなるまい。復興支援を兼ね、福島の自治体に職員を派遣するのも原発防災に本腰を入れる一つの契機となろう。苦い教訓に学び、万が一に備えなければならない。

(2011年10月22日朝刊掲載)

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