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社説・コラム

社説 広島県の平和拠点構想 オール被爆地で実践図れ

 広島県の「国際平和拠点ひろしま構想」の骨格が出来上がった。

 核兵器をめぐる国際情勢を監視し、廃絶への具体策を発信する。さらに平和構築の担い手や研究者を幅広く集め、育てていく―。理念だけでなく、行動を提起したのがポイントである。

 活動に必要な資金は主に世界から調達するという。斬新なアイデアだが、それだけに実現へのハードルは高そうだ。

 広島を挙げて取り組む必要があろう。県と広島市の連携を含め、まずは足元の現状を点検し、課題を整理してかからねばなるまい。

 構想の骨子は「広島の役割」として、まず核兵器廃絶へのプロセスの着実な推進を掲げた。政府の立場にとらわれずに意見交換する国際会議の開催を提言している。

 核軍縮への動きを被爆地の視点から評価・採点していくアイデアも盛り込んだ。各国政府任せでは廃絶は到底達成できないとの危機感の表れにほかならない。

 構想のもう一つの柱が、平和構築のための人材育成だ。地域紛争で荒廃した世界各地が、廃虚から復興を遂げた広島の地に学び、再生への希望を見いだしてほしいとの願いがこもる。

 だが、具体的な道筋がいまひとつ見えない。広島で学ぶといっても、その復興の全体像が把握しにくいことも関係していよう。

 被爆地自身が復興史を集大成していく作業が必要だ。廃虚から立ち上がった官民の動きは県史や市史などで一定に整理されている。しかし、人々の日々の営み、地域や企業の動き、街並みの変遷なども含めた総合的な調査研究が十分とはいえまい。

 構想はまた、核軍縮と平和構築の両面で広島が世界のシンクタンク機能を果たすため、平和に関する研究の集積もうたっている。

 平和学全般では既に、広島市立大広島平和研究所などの拠点がある。ところが実際には核軍縮の専門家は少ない。長崎大が来年春、核兵器廃絶研究センター(仮称)を設ける計画があり、「先を越された」との声が上がるほどだ。

 そうした現状を踏まえれば、構想を着実に進めるには何より、広島市との連携が課題といえよう。これまで市は平和市長会議、県は放射線被曝(ひばく)者医療国際協力推進協議会(HICARE)などと、国際貢献分野で役割分担してきた。

 今回の構想に、それぞれのネットワークを活用する具体的な言及は見当たらない。県と市が互いの活動の蓄積を活用し、連携を新たなステージへと進めていく。そうした視点が不可欠だろう。

 各大学や市民団体だけでなく、長崎との協働も必要ではないか。

 平和への貢献は被爆地の責務であり、その担い手は住民にほかならない。今回の構想は内外の有識者がまとめたが、肉付けして実践に移す段階では県民の声を幅広く結集する工夫も求められよう。

 さらに一人一人が平和の発信者となるには、地道な被爆体験の継承、平和教育の充実も問われる。

(2011年10月24日朝刊掲載)

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