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社説・コラム

社説 九電やらせメール問題 真相究明なぜ置き去り

 佐賀・玄海原発の再稼働をめぐる「やらせメール」問題で、九州電力はきのうの取締役会で国への報告書の修正を見送った。

 当初、古川康知事の関与は認めないまま、内容を微修正するとみられていた。それでは国に受け取ってもらえないとの懸念が社内で広がったようだ。

 小手先で取り繕う事態は避けられた格好だが、問題の最終解決にはほど遠い。知事がどう関与したかを明確にし、報告書を全面的に書き直してもらいたい。

 経緯を振り返ると、知事をかばうために真相究明を怠っているとしか思えない節がある。

 しかも問題は一企業の経営体質にとどまらない。原発と電力会社に対する国民の信頼が揺らいでいることを、九電の経営陣は本当に自覚しているのだろうか。

 報告書の大幅修正に抵抗しているとされる真部利応社長の辞任をはじめ、もはや人心一新は避けられまい。

 発端は今年6月、玄海原発の再稼働について県民の意見を聴く政府主催の番組だった。九電は再稼働に賛成する意見を番組に送るよう指示するメールを社内や関係会社に広く流した。

 発覚を受け、外部有識者による第三者委員会は先月末、「知事の発言がやらせメールの発端」と認定する調査結果をまとめた。

 ところが九電が国に提出した報告書は、知事の関与や責任をうやむやにしていた。

 九電側は、知事とのやりとりをメモにする段階で真意を取り違えたとするが、九電自身が設けた第三者委の結論を無視するのはあまりに不自然だ。枝野幸男経済産業相が「理解不能だ」と突き放したのは当然といえよう。

 報告書は2005年にあった玄海原発へのプルサーマル導入をめぐる佐賀県主催の公開討論会についても「仕込み質問があった」ことを認めている。

 一方、第三者委の調査段階で、九電がこの討論会関連の資料を廃棄したことが発覚した。悪質な証拠隠しとみられても仕方ない。

 九電の問題を機に、原発の安全性をチェックする経産省原子力安全・保安院も同様の「やらせ質問」を電力会社に次々と要請していたことが明るみにでた。

 一般家庭は電気を購入する会社を選べない。資材発注などを通じて地域経済に占める電力会社の存在感は大きい。

 そうした「地域独占」が、九電にものが言いにくい状況を招き、外部からの批判に耳を貸そうとしない体質につながっていたのではないか。

 福島での事故を受け、原発の安全性に対する国民の不安はかつてなく強まった。それでもなお民意をごまかし、誘導しようとした点に、やらせメールがはらむ問題の根深さがある。

 このままでは玄海原発の再稼働に到底、理解は得られまい。どう信頼を取り戻していくのか、九電は一から出直すべきだ。

(2011年10月28日朝刊掲載)

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