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社説・コラム

社説 食品と放射能 きめ細かな規制が要る

 食品に含まれる放射性物質の基準値が見直される。厚生労働省は放射性セシウムの被曝(ひばく)限度を現行の年間5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げる方針を明らかにした。

 個々の食品の新しい基準値をつくり、来年4月から生産、出荷される食品に適用する方向である。現行の暫定基準値より大幅に厳しくなる見通しだ。

 暫定値は福島第1原発の事故後に、緊急時の被曝限度に関する国際放射線防護委員会(ICRP)の基準をもとに慌てて設けた。数値が甘過ぎるとの批判が当初からあった。

 緊急事態を脱した今、なるべく早く、より厳しい規制に移ることは当然だ。新基準作りに当たり、政府は国民が安心できるよう説明を尽くしてもらいたい。

 厚労省は厳格化の根拠として、食品の国際基準を決める政府間組織が年1ミリシーベルトを超えないよう指標を設けていることを挙げた。

 食品中の放射性物質の健康への影響については、内閣府の食品安全委員会が「生涯の累積線量がおおよそ100ミリシーベルト以上で影響が見いだされる」と答申したばかり。

 仮に寿命を100歳とした場合、1年平均で1ミリシーベルトがセシウムを含む放射性物質全体の許容量となる。厚労省も、何らかの参考にはしたようだ。

 新基準値が決まっても、実際にどれくらいの放射性物質を含んでいるか分からなければ、国民の不安は解消しない。

 より多くの食品で測定を進め、公表していく必要がある。政府は、生産者や流通業者の自主検査も後押しするなど測定の網を広げてほしい。

 今夏、放射能汚染された牛肉が出荷されるケースがあった。新基準値に対応した徹底的なチェック体制が要るのは言うまでもない。

 食品安全委員会は「子どもは大人より放射線の影響を受けやすく、白血病や甲状腺がんのリスクが高まる」と指摘した。

 子どもの放射線感受性は大人の2~3倍ともいわれる。乳幼児や妊婦と、一般の大人を一律に1ミリシーベルトの基準でくくるのは果たして妥当なのだろうか。

 個々の食品について、放射性セシウムの暫定基準値は2通りしかない。飲料水や牛乳・乳製品の1キログラム当たり200ベクレルと、コメを含む穀類や野菜、肉、魚介類などの同500ベクレルである。

 子どもへの影響を考えると、少なくとも、粉ミルクやベビーフードなど乳幼児用食品には厳格な基準の新設が要ろう。

 主食のコメと、野菜などが同じ基準値でいいのかも検討してもらいたい。規制対象にする食品群の見直しも進めるべきだ。国民が納得できるような、きめ細かな規制こそ求められている。

 気になるのは、厚労省も食品安全委員会も外部被曝との関係に触れていないことだ。人は食品からの内部被曝に加え外部被曝の影響も受ける。政府は、両方を合わせた基準値も明らかにすべきだ。

(2011年10月30日朝刊掲載)

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