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社説・コラム

社説 除染廃棄物の処分 住民の不安は拭えない

 福島第1原発事故で古里を追われた人々にとって、放射性物質の除染は生活再建の大前提となる。だが政府が示した工程表には不確定な要素が多く、かえって住民不安を招きかねない。

 農地や住宅地から汚染土壌をはぎ取り、まずは地域の仮置き場に3年程度保管する。この間、福島県内に中間貯蔵施設を設け、順次搬入する。その後、30年以内に県外へ持ち出して最終処分する―。

 細野豪志環境相が知事らに示した基本方針は、こうした処理スケジュールを盛り込んだ。

 本格的な除染へ向け、大枠を示したことは評価できよう。だが中間貯蔵や最終処分の場所は全く白紙の状態だ。環境省幹部も「政治的な決意表明という意味合いが強い」と具体性に欠けることを半ば認めている。

 知事は態度を保留し、原発周辺の市町村長に反発も出ている。「本当に実現できるのか」と住民が懸念を強めるのも無理はない。

 環境省によると、警戒区域と計画的避難区域については国の責任で仮置き場を確保して除染する。それ以外の汚染地域では国の負担で市町村が作業を担う。

 ところが、この仮置き場の選定さえ難航している。既に住民説明が始まり、紛糾している場所もあるようだ。中間貯蔵や最終処分の場所が未定のままでは、仮置きが長期化する恐れがあるからだ。

 さらに中間貯蔵施設について基本方針は、容量は1500万~2800万立方メートルに達し、3~5平方キロもの敷地が必要と見込む。  こちらも最長30年も保管するとなれば、候補地の絞り込みは難航が必至だろう。

 汚染土壌や廃棄物の容積を減らす「減容」の技術開発もこれからの段階だ。

 中間貯蔵施設の設置場所については8月末、退陣を前にした菅直人前首相が知事に対し「県内」と伝えたのが発端だ。地元の理解を得られず、ボタンを掛け違えたまま動きだした感は否めない。

 とはいえ、もはやこれ以上、時間を浪費する余裕はないはずだ。福島第1原発は年内の原子炉冷温停止が想定され、政府は年明けから本格的な除染を始める考え。地元の不安解消に向け、残された時間は決して多くない。

 国際原子力機関(IAEA)の専門家は、放射線を封じ込める最終処分の重要性を指摘している。仮置きや中間貯蔵のままでは万一の場合、国民の健康と安全に影響を及ぼしかねないためである。

 一方で、震災がれきでさえ受け入れ先に苦慮する現状がある。中間貯蔵や最終処分の候補地選定について、政府は絞り込み作業の過程で十分な情報公開を心掛けてもらいたい。同時に地元への丁寧な説明が不可欠だ。

 住民の一日も早い帰郷に向け、これ以上の棚上げは許されない。福島県外でも、放射性物質の濃度が高い「ホットスポット」が少なくない。その除染も政府の責任で早期に進める必要がある。

(2011年11月2日朝刊掲載)

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