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社説・コラム

広島両トップ 成果と課題 

 核兵器廃絶の声を世界に届けるため、それぞれ米国と欧州に赴いた広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井一実市長が13日、帰国した。両トップにとって被爆地が背負う役割を再認識させる旅となった。成果や浮かび上がった課題を同行記者が振り返った。


再認識の外遊

湯崎知事 潘氏との会談に手応え

 湯崎知事が県の「国際平和拠点ひろしま構想」を発信した5日から9日間の米国出張。最大の目的だった国連の潘基文(バンキムン)事務総長との会談で、支援を取り付けることができた。一方、構想展開のための有力な資金調達先と見込む米財団からは協力への明確な回答は引き出せず、実現へのハードルの高さを示した。

 9日、米ニューヨークの国連本部。「全面的に支援するというお話をいただいた」。潘氏との会談を終えた湯崎知事は手応えを語った。予定を10分超えた約30分の会談の中で、潘氏は国連の人材やネットワークを使った支援を約束したという。

 ホノルル、シカゴ、ワシントン、ニューヨーク、サンフランシスコの5都市を回った。予定の訪問先以外に米政府高官から急きょ面会の申し入れがあり、米メディア3社が取材に駆け付けた。被爆地の知事の原爆投下国行脚は関心を集めた。

 ただ、8日のワシントンでの構想発表会見の場には肝心の米メディアの姿はなかった。湯崎知事は「核兵器廃絶への市民の関心を高めるのが最も難しい。大掛かりな工夫が必要だろう」と語った。

 構想は世界から人材や研究成果、資金を集める仕組みづくりを提唱する。湯崎知事は資金提供への協力を念頭に今回、核兵器廃絶や平和構築に理解の深い慈善基金団体など計四つの財団と接触した。

 財団幹部たちは「被爆地が拠点となる発想はユニーク」「理念ではなく実際に物事を動かそうとしている」と評価しながらも、「対話を続けたい」と述べるにとどめた。

 2030年の核兵器全廃を提唱する国際的な有識者会議「グローバル・ゼロ」に協力するスコール財団。創始者のジェフリー・スコール氏は「知事の熱意は明瞭なのでプランとタイムスケジュールを立てれば資金提供の実現性は高まる」と助言する。

 こうした指摘に、湯崎知事も「具体的な活動や組織体をつくることが急務だ」と語る。構想は国内外の有識者がまとめたが、肉付けには県民の声を結集する工夫と努力が必要で、世界への継続的な発信も欠かせない。湯崎知事が掲げる「成果主義」の真価が問われる。(加納亜弥)

国際平和拠点ひろしま構想
 核兵器廃絶に向け、被爆地広島が果たすべき役割を提言する内容。元国連事務次長の明石康氏たち国内外の有識者が策定委員に名を連ねた。核兵器廃絶のロードマップへの支援▽核テロの脅威の削減▽平和な国際社会構築のための人材育成や研究集積―など5項目の行動計画を掲げる。核兵器廃絶の取り組みをリードしてきた広島市との連携も強調する。


被爆地の役割

松井市長 実利優先 手堅さ見せる

 松井市長は7~13日、スペインとスイスを訪ねた。本格的な平和外交の海外デビューは、パフォーマンスより実利を優先した元官僚としての手堅さが目立った。

 9、10日にスペイン・グラノラーズ市であった平和市長会議の理事会で松井市長は、加盟が5千都市を超える現状を受け、「質も高める必要がある。平和市長会議はお金が足りない」と率直に問題提起した。

 年間約3千万円かかる運営費を加盟都市に負担してもらうため、具体的な複数のプランを用意。うち各国が国連に拠出する分担金の割合を準用する案では、日本国内の加盟都市は1都市につき年1万4千円だが、アフリカ・カメルーンの加盟都市は同12円と説明。アフリカなど新興国の都市へ配慮をみせた。

 広島、長崎を中心に役員都市が財政負担するプランでも具体的な負担額を提示。全てのプランで利点と問題点を併記し、「財政強化は急務」との問題意識を共有した。

 理事会では、地域ごとの支部的組織を設ける案も了承された。松井市長は「質を伴う組織」への手掛かりを実感したようだった。

 松井市長は、2013年に地元広島で開く市長会議の総会を「次のマイルストーン(節目)」とし、財政問題や地域組織について結論を出す方針。「(加盟都市との)対話を大事にすれば実現できる」と自信をみせる。

 ただ被爆地の市長には実務家の側面とともに、世界へ訴えかけるアピール力も求められる。出張後半、ジュネーブの国連欧州本部で原爆資料の常設展示の開会式典に臨んだが、被爆者や高校生平和大使を同伴した長崎市に比べ、広島市の存在感は希薄だった。  今回の訪欧に先立つ10月には旧ソ連時代の核実験場閉鎖を記念する式典にカザフスタンから招かれたが、「内政に集中したい」と断り、長崎市長だけが出席したこともあった。

 航空機のファーストクラス利用など度重なる海外出張が賛否を呼んだ秋葉忠利前市長を意識してか、松井市長は「迎える平和」を基本姿勢に掲げる。「内と外」のバランスをどう調和させるのか、松井流の平和行政の今後を注視したい。(田中美千子)

平和市長会議
 1982年に広島、長崎両市長の呼び掛けで発足した「世界平和連帯都市市長会議」が前身。広島市長が会長、長崎市長は副会長を務める。1日現在で151カ国・地域の5053都市が加盟。2020年までの核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン」を掲げる。年平均約3千万円かかる運営費は広島、長崎の両市が負担している。

(2011年11月15日朝刊掲載)

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