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社説・コラム

社説 除染と避難住民 「帰れない」不安 直視を

 福島第1原発事故で飛び散った放射性物質を取り除くための工程表を政府が示してから2週間余りたった。福島県内の自治体や住民は前例のない除染を進める困難に直面している。

 農地や山林まで除染する作業は気が遠くなるほど。廃棄物の仮置き場の確保も難航している。古里を追われた人々は「本当に帰れるのか」と不安を募らせている。

 帰るための除染徹底だけでなく、帰還断念を前提にした生活保障を求める声も出始めた。先が見えない住民の実態を国は直視し、柔軟な対応を講じるべきだ。

 計画的避難区域に指定され、全村の約6千人が避難した飯舘村。住宅周辺2年、農地5年、森林20年をめどに除染する計画を村が立てた。総額3224億円を見込み、国に予算措置を要望した。

 住民たちは避難先の仮設住宅で説明会に臨んでいる。「山の除染が後回しでは、雨のたびにそばの農地が汚れる」と首をひねる農家。除染よりも住宅や農地の買い取り補償を求める人もいる。

 7万人余りが避難している原発周辺の双葉郡8町村。福島大の住民アンケートでは、4分の1が「帰る気はない」と答えた。除染の困難さ、国の安全宣言が信用できないことなどが理由だ。帰る気はあっても、待てる期間は2年以内と答えたのは半数に上る。

 帰りたいが、除染の効果は期待できるか。恐らく若い世代や子どもは帰らないだろう―。住民の心中に渦巻くそんな思いをすくい取るのが国や自治体の役目である。

 現地は今、延期されていた選挙の最中。原発が立地する大熊町の町長選は町民の帰還が争点だ。

 現職は、放射線量が低い地域から除染を進めて古里再建を説く。新人は帰還断念が現実的とし集団移転や移住先の保障を求める。周辺町村も、いずれは向き合わねばならない課題と言えるだろう。

 除染計画は行政主導で進んでいる。避難民たちは、古里に帰るか否かを含め住民意向を踏まえてほしいと望む。除染より補償を選ぶ地域が出てくるかもしれない。

 除染のネックになりかねないのが放射性廃棄物の処分問題だ。政府は地域に仮置きし、さらに福島県内に中間貯蔵した上で30年以内に県外で最終処分するという。

 ところが仮置き場の設置すら各地で難航している。まして中間貯蔵施設は最終処分場になる恐れがあるとして敬遠される。最終処分場の県外確保は「第二の普天間問題」になりかねない。

 原発直近の地域が受け入れる方向になるのを待っているのかと疑う住民もいる。国が明確な根拠を示さない限り疑念は晴れまい。

 当面、国が急がなくてはならないのは、除染で放射線量はどこまで下げられるのかというきめ細かなデータの予測と公開である。古里に帰るか、移転するかの住民の判断基準になるからだ。

 そして、どちらのケースについても住民に寄り添った支援が必要なことは言うまでもない。

(2011年11月17日朝刊掲載)

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