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社説・コラム

社説 米中の主導権争い 日本の「橋渡し」試される

 急成長する東アジア経済圏での主導権をめぐり、米国と中国のせめぎ合いの構図が際立ってきた。

 両大国に挟まれる日本が、どう存在感を発揮し、アジアの平和と繁栄を実現していくか。確かな外交手腕が問われよう。

 中国は経済、軍事の両面で、東南アジア諸国連合(ASEAN)への影響力を強めている。深刻な財政難にあえぐ米国のオバマ大統領が「アジア重視」の外交方針を鮮明にしているのも、中国に刺激されているからにほかなるまい。

 とりわけ米国が切り込もうとしているのが南シナ海問題だ。中国がほぼ全域で領有権などを主張し、ASEAN加盟国との緊張が続いている。

 オバマ大統領はきのうインドネシア・バリ島であった東アジアサミットに参加し、南シナ海問題の平和的な解決を呼び掛けた。太平洋地域の海洋安全保障をけん引していく意欲の一端といえよう。

 中国の温家宝首相は、外部勢力が介入すべきではないとの立場から強く反発したという。

 一方、この問題では、中国が法的拘束力のある「行動規範」の制定に前向きな姿勢を見せる場面もあった。サミット前に急きょ、米中首脳会談が開かれる一幕も。米国をけん制しつつ、主導権は譲らない姿勢であろう。

 野田佳彦首相はサミット後の記者会見で「日米同盟はこの地域の公共財」と述べた。日米同盟に基軸を置く日本の立場をあらためて明確に示した格好だ。

 ASEANを舞台にした米中のさや当ては軍事面に限らない。

 自由貿易圏構想で、米主導の環太平洋連携協定(TPP)から外れている中国。ASEANに日中韓を交えた「プラス3」による経済連携の道筋を主張してきた。

 今回のサミットでは、このプラス3にインドなども含めた広域的な自由貿易協定(FTA)へ向けた政府間協議を始めることを了承している。  中国の意向も踏まえ、TPPに対抗する枠組みを目指すことになる。野田首相は「わが国が先頭に立って貢献する」と積極的に推進する姿勢を明確にした。

 とはいえ日本はTPPの交渉参加に向けた協議入りを表明したばかりだ。国内への説明も十分に尽くしていない段階である。

 さらに同時並行で新たな貿易交渉に突き進むのは、拙速に過ぎるのではないか。

 前政権からくすぶる尖閣諸島問題をはじめ、中国との間に抱える政治的な摩擦が解消されたとはいえまい。東アジアの平和と安定に向けた地道な対話を重ねる以前に、経済政策面ばかりが前のめりになっているようにみえる。

 毎年のように政権トップが交代し、外交に不可欠な人脈や経験が蓄積されない点も気掛かりだ。

 米中関係が深刻な緊張状態に陥らないよう、「橋渡し」役を果たすべき国は日本にほかなるまい。建設的な議論の場を取り持つだけの力量を備える必要がある。

(2011年11月20日朝刊掲載)

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