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社説・コラム

社説 沖縄防衛局長更迭 痛みに本気で向き合え

 不適切どころか、人格さえ疑わせる暴言である。

 沖縄防衛局の田中聡局長が米軍普天間飛行場の移設問題に関連して「犯す前にこれから犯しますよと言うか」と女性への乱暴に例える発言をしたという。

 辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の報告書提出時期をめぐる、地元記者たちとの懇親会でのやりとりだ。

 普天間飛行場の移設をはじめ、沖縄の「痛み」軽減へと日米両政府を動かした発端はほかでもない。1995年に起きた米兵による少女暴行事件ではなかったか。

 にもかかわらず、である。いまだに負担を強いられている側に立とうとはしない。見識のなさが政権内に巣くっていると疑われても仕方ないだろう。身内である防衛省の政務三役から田中局長の姿勢を疑う声が上がるのも当然だ。

 暴言が表沙汰となったその日のうちに、政府は局長の更迭に踏み切った。野田佳彦首相は「心からおわびする」と頭を下げた。

 事態の沈静化を急いだのは環境アセスの段取りがあるからだ。評価書の年内提出は、11月の日米首脳会談でオバマ米大統領に約束している。

 首相以下、閣僚は暴言に怒る沖縄県民への謝罪で口をそろえながらも、年内提出だけは譲らない。対米公約のせいに違いあるまい。

 野田政権の発足後、担当閣僚が相次いで沖縄を訪ね、負担軽減の実行を繰り返し口にしてきた。米軍属の裁判権の問題では日米地位協定の運用を一部改善した。

 すべてはアセス提出に向けての地ならし作業だったといえる。

 沖縄県議会は先ごろ、提出を断念するよう政府に求める意見書を全会一致で可決している。その直後だけに、今回の発言は県民の怒りに油を注いだ。

 辺野古反対の県内世論が一層強まっても無理はない。年内提出というスケジュールはもう白紙に戻すべきではないか。

 防衛省という組織の体質も根底から見直す必要がある。女性を、そして沖縄の人々の尊厳を傷つける。あきれた人権感覚の官僚に出先機関のトップを任せてきた。

 一川保夫防衛相は任命責任を問われよう。本をただせば、防衛相自身が就任直後に「私は安全保障の素人」と発言し、その責任感を疑われてもいる。

 民主党への政権交代後、沖縄の基地負担について県民感情を逆なでする発言が相次いでいる。仙谷由人氏は官房長官当時に「甘受していただきたい」、玄葉光一郎外相は「踏まれても蹴られても沖縄の皆さんと向き合う」と言った。

 きのうの党首討論で自民党の谷垣禎一総裁は、首相のモットーである「正心誠意」に触れ、「言葉よりも行動を」と求めた。

 今なお在日米軍基地の約74%を押し付けられたままの沖縄。野田首相は一刻も早く、沖縄の地を踏むべきだろう。そして、その「痛み」にこそ正心誠意で向き合わねばなるまい。

(2011年12月1日朝刊掲載)

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