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社説・コラム

『潮流』 本当に想定外なのか

■論説主幹 山城滋

 福島第1原発を襲った10メートルを超す津波は本当に想定外だったと言えるのか―。地震国で起きた未曽有の事故の原因を調べる上で、核心は恐らくそこにある。

 東京電力が先週、公表した事故の中間報告書は「想定を大きく超えて防げなかった」と結論づけた。賠償問題への影響も考えたのか、自己弁護の色合いが濃い。

 第1原発は5.7メートルの津波に耐えるよう対策を講じていた。参考にしたのは過去確認できた中で最大のチリ津波(1960年)だ。

 ところが国の研究機関が9年前、三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもマグニチュード(M)8.2前後の地震が起きる可能性があると公表。特定の地域、例えば福島沖での30年以内の発生確率は6%程度との推定だった。

 無視できない見解である。東電社内でも検討を始めた。福島沖が震源の津波データはない。明治三陸沖地震(M8.3)のモデルを当てはめて試算すると、最大10.2メートルの津波が第1原発を襲うとの結果が3年前に得られた。

 対策を講じていれば事故の様相は異なっていただろうが、東電は動かなかった。「試算は具体的根拠のない仮定に基づくものに過ぎなかった」と報告書にある。

 詭弁(きべん)としか思えない。未確定であれ、予測できる最大の危機に備えるのが真の安全対策のはずだ。大事故は起きないと外向きに言い続けるうちに、最悪の事態に対する想像力が薄れたのではないか。

 報告書には安全対策について「国へ報告」の語句はよく出てくるが、国の存在感は希薄だ。電力会社任せの実態も浮かび上がる。

 政府や国会の事故調査は、国の責任も含め核心を突いてほしい。

(2011年12月7日朝刊掲載)

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