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社説・コラム

天風録 「臨時ニュース」

 「臨時ニュースを申し上げます」。午前7時の時報に続き、ラジオからただならぬ知らせが流れた。「帝国陸海軍は本8日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入(い)れり」。70年前のきょうのことである▲音声が残る都内のNHK放送博物館を訪ねた。アナウンサーの声が心なしかこわばって聞こえ、暗くて深い時代の淵(ふち)をのぞいた気分になる。高齢女性や外国の若者も再生ボタンを押していく。その胸中に何が去来するのだろう▲歌人の斎藤茂吉はこの日、好物のウナギを2度食べた。日記には明治神宮で東条英機首相と出会ったことや「老生ノ紅血躍動!」「皇軍大捷(たいしょう)、ハワイ攻撃!!」とも記した。高揚ぶりはウナギのせいだけではあるまい▲当時「天柱」の名だった本紙コラムも例外でない。「世界和平の守護神として敢然立ち上った皇国日本」「一億国民は邁進(まいしん)するのみだ」。翌9日付にそうある。新聞も放送もこぞって戦時色に染まっていく▲現代の臨時ニュースといえば地震速報だろう。反射的に身構える。軍靴の響きにも鋭敏でなくてはなるまい。遠い昔か外国の出来事と忘れてはいないか。まずはあの暗い知らせを思い起こしたい。

(2011年12月8日朝刊掲載)

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