×

社説・コラム

社説 次期戦闘機選び 議論は尽くされたのか

 政府は航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に、米国主導で国際共同開発中のF35を選定する方針を固めた。来年度予算案に4機分の取得費を計上し、最終的には約40機を調達するという。

 F35はレーダーに探知されにくいステルス機能が優れた次世代戦闘機である。「専守防衛」を基本とする日本の防衛に、これほどの性能が必要だろうか。

 ステルス機は相手国の領空に入り込む能力が高く、ミサイル攻撃や空中での戦闘を優位に進めることができるとされる。

 ところが自衛隊法では、領空侵犯してきた外国機は領空外に退去させるか、着陸させるよう求めている。攻撃については明確な記述はない。ステルスが自衛隊にそぐう装備なのかどうか、法制面も含め議論が深まったとは思えない。

 日本としては、米国防総省が強く推奨するF35の導入により、安全保障面での対米重視を明確に打ち出すことはできるだろう。

 とはいえ、遅れている米軍普天間飛行場の移設問題にも配慮した上での選定ならば、筋違いというほかない。

 中国とロシアもそれぞれステルス機を独自に開発しているとされ、「有事」を想定した選択という面はあるのだろう。

 だが韓国では、日本がF35を選ぶことで東アジア一帯での「ステルス競争」が加速するのではないかとの見方が出始めている。日本の安易な導入は隣国を刺激し、緊張をあおりかねない。

 しかも日本は今、中国やロシアとの関係が決して良好とはいえない。信頼醸成よりも軍備競争が先行する事態は、かえって地域の平和や安定にマイナスとなる。

 F35は最新鋭とあって、同じ機種同士やレーダーとのネットワーク機能にも優れるとされる。米軍側は、自衛隊に配備されることで運用面での連携が高まる相乗効果を期待しているという。

 陸上、海上自衛隊はこれまでも米軍主導の作戦への派遣要請に応じてきた。これに戦闘機も加わる可能性が高まりそうだ。

 FXの機種選定では、米国製のFA18や欧州製のユーロファイターも候補だった。

 だが防衛省の審査は当初から、F35に肩入れしていた印象が拭えない。開発途中だとして実機による飛行審査も省略されたようだ。  価格が高騰する恐れもある。F35を米軍が取得すれば1機約6500万ドル(約50億円)というが、共同開発に参加していない日本向けは、はるかに高額となる。

 東日本大震災で財政面でも危機的状況にある中、防衛費だけが聖域とはなるまい。ほかの2機種の方が割安とされるが、具体的な導入費用やその後の維持管理コストも含め、機種選定の詳細な過程はまだ公表されていない。

 何よりF35の導入が日本にどんな安全をもたらすのか、国民への説明は省略されたままである。東アジアで無用の緊張が高まらぬよう、時間をかけ議論すべきだ。

(2011年12月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ