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社説・コラム

社説 イラク戦争終結宣言 中東の平和 遠い道のり

 9年近くに及んだイラク戦争がやっと終わる。米国は今年末までに駐留部隊の撤退を完了。帰還兵士を前にオバマ大統領は「君たちのおかげでイラクは安定した」などとねぎらった。

 最大時に17万人もの米兵を投入し、4500人が死亡した。テロや武装勢力の攻撃を含めて民間の犠牲者は11万5千人に及ぶ。フセイン独裁政権こそ崩壊したものの、戦争によるイラク国民の被害はあまりに甚大というほかない。

 バグダッドをはじめ各地で爆弾テロが続く。イスラム宗派間の対立は根深く、少数民族問題なども絡んで政情不安の懸念が残る。

 それでもマリキ政権は、治安維持を目的とする米軍の駐留延長を認めなかった。主権回復への姿勢は評価できよう。各政治勢力の連携を強めて復興を急いでほしい。国際社会もインフラ整備や生活再建への支援に力を注ぐべきだ。

 イラク戦争は終結しても、中東和平をはじめ周辺地域の安定に結びつくのかは見極めにくい。

 オバマ大統領は、対テロの主戦場と位置づけていたアフガニスタンでも駐留米軍撤退の出口戦略を示している。だがカルザイ政権と、勢力を盛り返した反政府組織タリバンとの和平はこれからだ。

 隣国パキスタンでは米中枢同時テロを首謀したビンラディン容疑者を米軍が単独行動で殺害。同国の対米感情が悪化した。

 さらにアフガンに展開する米軍中心の国際治安支援部隊(ISAF)がパキスタンで誤爆事件を起こし、米軍は今月、同国からの撤退を余儀なくされた。両国関係の亀裂が広がり、アフガン周辺の不安定要因が膨らむ。

 イラクとアフガンに挟まれたイランの核兵器開発疑惑も深まった。国際原子力機関(IAEA)の報告書によると、必要な実験と関連装置の開発を進めているようだ。経済制裁を強める欧米との対立が一層激しくなっている。

 長引いたイラク戦争は、米国内では財政悪化をもたらし、国外でもイスラム社会の反米感情を増幅させた。「アラブの春」ではエジプトの親米政権も崩壊。中東での米国の影響力は以前に比べ大幅に低下したといえよう。

 オバマ氏は戦争の評価を避け、勝利宣言もできない終戦となった。そもそもフセイン政権が大量破壊兵器を開発しているという、ブッシュ前大統領が掲げた開戦の「大義」が虚構だったからである。誤った決断の責任は重い。

 当時、ドイツやフランスは国連による査察の継続などを理由に、開戦に反対していた。

 しかし小泉政権は米国の軍事行動を支持し、イラクに復興支援の自衛隊を派遣した。

 別の選択肢もあったのではないか。政府判断の是非を含め、戦争に至る経緯を詳細に検証する必要があろう。

 国際紛争が続く中、今後も軍事面での対米協力を強く求められるケースがあり得る。主体性を失わず冷静に判断を下したい。

(2011年12月16日朝刊掲載)

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