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社説・コラム

天風録 「安全の吟味」

 結婚前は両目を大きく開き、結婚してからは閉じよ―。17世紀の英国の神学者トーマス・フラーの格言である。しばしば披露宴の祝福スピーチに引用される。うなずいて聞く人も少なくないようだ▲何事も決断する前に、良い面も悪い面もじっくりと吟味した方がいいに違いない。それにしては、目を背けるのが少し早すぎはしないか。原発建設計画に揺れる山口県上関町の柏原重海町長の発言が波紋を広げている▲「原発の安全性は確保されていると思う」。町議会一般質問でそう答弁した。事故を起こした福島第1は除くとの前提が付くにせよ、まだ原因は見極められてはいない。反論もさぞかしと思いきや、議場内はそうでもないらしい▲津波を持ちこたえた宮城県女川原発を視察した議員が肩を持つ。安全対策さえ徹底すれば、大津波や地震にも耐えられる確信を得たと。上関の周辺市町議会が相次いで計画の中止や凍結を求めていることは、視野から抜け落ちているのかもしれない▲フラーはこんな格言も残している。「間違いは常に急ぐことから起こる」。焦るあまり、まだ終わらぬ事故を風化させてはならない。ましてや安全の吟味はこれからだ。

(2011年12月16日朝刊掲載)

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