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社説・コラム

社説 広島県と広島市 連携強化の実を挙げよ

 道府県と政令指定都市は互いの行政権限が重なり合う。だから仲があまり良くないのが通り相場だったが、そうは言っておれない時代になってきたのか。

 広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井一実市長は先月、二つの共同作業を事務レベルで始めることに合意した。「二重行政」の解消に向けた研究会と、国際平和推進のための連絡会議だ。

 一昔前と違いトップ同士の関係が良好でやりやすい面もあろう。一方で、連携強化は客観情勢に後押しされていることも確かだ。

 県市の財政は年ごとに厳しさを増す。二重行政による無駄をなくすための協力は当然だろう。

 中央と地方の格差拡大も放置できない。今ある資源を生かして広島都市圏の新たなビジョンをどう描き直すか。県と市の足並みがそろわなければ前へ進めまい。

 道府県との二重行政は政令市の制度自体が抱える弊害である。解消策になりそうだった府県を再編する道州制への動きは止まったままだ。なら、どうするか。

 大阪維新の会が目指す「大阪都」は市と府を統合する抜本改革だが、法律改正が必要だ。これに対し広島県、市の連携は今の制度の下で可能なことから手を付けようという現実的な選択である。

 二重行政の解消に向けた検討は松井市長が提案し、湯崎知事が応じた。早ければ来年1月にも研究会を設け、福祉や産業振興など権限が重なる事業を総点検。その上で、県が主体、市が主体、双方が連携に3分類するという。

 県民、市民のためとの観点から無駄排除の実を挙げてほしい。過去の経緯や慣行は脇にやり、ゼロベースからの議論が欠かせまい。施設管理の一元化の検討や外郭団体の業務の点検も必要だ。

 県と市の連携は高速道や港湾などインフラ整備が主だったが、新たに浮上したのが平和施策だ。

 これまでは市が核兵器廃絶の取り組みの先頭に立ち、県は被曝(ひばく)医療支援などを担ってきた。ところが県は今年、核兵器廃絶に果たすべき広島の役割を示す国際平和拠点構想をまとめたからだ。

 湯崎知事の公約であり、紛争地支援や人材育成も盛りこんでいる。本来なら有識者に構想策定を依頼する前に市と連携するのが望ましいテーマだった。

 構想の具体化を控えて県が市に協力を呼びかけ、連絡会議を設けることにした。遅ればせながらではあるが、オール広島で取り組んで構想を前へ動かしてほしい。

 全国には19の政令市がある。「中京都」を掲げる愛知県と名古屋市、「新潟州」構想の新潟県、市も抜本改革を目指す。

 一方、指定都市市長会は政令市が府県から独立する特別自治市を主張してきた。国も大都市制度のあり方の検討を始める。

 広島県、市の試みは一石を投じることができるか。県民、市民の目をどう入れるかも鍵を握る。住民の支持を得てこそ、連携強化の成果が引き出せるはずだ。

(2011年12月24日朝刊掲載)

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