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社説・コラム

社説 展望’12 エネルギー改革 産業と生活 見直すとき

 政府の「収束」宣言とは裏腹に、東京電力福島第1原発の事故処理は越年した。原因の究明が本格化するのはこれからである。

 事故を教訓に万全の対策を講じるには、さらに時間がかかる。

 電力不足に備え、冬の節電が続く。各地の原発が次々に定期点検に入り、今春に全国54基の商業炉が全面停止する公算が大きい。企業活動への影響を心配して再稼働を求める声が上がっている。

 しかし原発に対する国民の不安、不信は拭えていない。

 これまで原発を推進してきた原子力安全・保安院などによるストレステストだけでは、地元の合意を得るのも難しいのではないか。

 事故後の知見を加えた幅広い検討とデータの公開が、再稼働を認めるかどうかの前提になろう。

 電力をはじめとするエネルギーのありようが問われている。国は今夏をめどにエネルギー基本計画を白紙から見直す。当然、原子力の扱いが焦点だ。

 原発への依存度をどう下げていくのか。太陽光など再生可能な自然エネルギーは、7月に始まる固定価格での買い取り制度で発電側を支援し、普及を促す。

 それでも当面は供給が不安定でコスト高の懸念が残る。短期間に代替するのは無理かもしれない。

 つなぎの期間を含め、化石燃料の役割はなお重要となろう。とりわけ長年の利用実績と技術の蓄積がある石炭火力に注目したい。

 中国地方では二酸化炭素の排出を抑え、エネルギー効率を飛躍的に高める石炭ガス化複合発電の実用化研究が進んでいる。

 多様な電源としては出力千キロワットを上回るメガソーラーの新規参入が目立つ。用地の提供など自治体の後押しも大きい。

 主に農協が運営する小水力発電も中国地方の中山間地域で健在だが、老朽化してきている。こうした既存設備も自然エネルギーと同様に買い取り制度の対象にして支援を強めるべきではないか。

 取り返しのつかない事故を体験した今となっては、エネルギー源のコスト比較も従来通りにはできない。「安い」はずだった原発のコストは大幅に上昇している。

 電力会社の経営形態見直しも重要な課題である。地域独占体制への批判が強まる中、政府は昨年末、発電と送配電との分離や家庭用を含めた小売りの全面自由化を検討する方針を打ち出した。

 競争原理の導入は、需要が大きい都市部でとりわけ有効だろう。

 中山間地域では農林関連産業の廃棄物をバイオマス燃料として活用するなどエネルギーの地産地消を図る道がある。

 電力を消費する側も改革を迫られる。生産、流通の施設はもっと自前の発電や蓄電機能を備えてはどうか。個々人のレベルでは、住宅へのソーラー設置やエコ・カーの利用にとどまらず、簡素な暮らしを心掛けたい。

 産業と生活の両面から見直しを進め、安全なエネルギーを安定して供給できる仕組みを整えよう。

(2012年1月4日朝刊掲載)

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