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社説・コラム

社説 展望’12 核兵器廃絶 被爆者の声 今こそ共有

 米国がプルトニウムを使用した新たなタイプの核実験を昨年夏に実施していたことが分かった。

 核爆発を伴わない新型実験は3回目。備蓄している核兵器の有効性を維持するためだという。

 理解できない。オバマ米大統領は「核兵器なき世界」の実現に向け努力すると約束したはずだ。なのに臨界前核実験も3回強行している。廃絶とは逆行する裏切り行為にほかならない。

 米国とロシアの間で1年ほど前に発効した新戦略兵器削減条約(新START)も行方が怪しくなっている。欧州でミサイル防衛(MD)建設を進める米国にロシアが反発し、条約脱退の可能性まで口にしたためだ。

 歩調を合わせるように、独裁国家やテロリストが核兵器を手にする危機も強まっている。

 イランが核燃料棒の製造に成功し、原発研究炉で性能試験を行ったという。原発用と主張するが、軍事利用の疑惑は拭えていない。

 同じくウラン濃縮を進めると宣言した北朝鮮の動向も気掛かりだ。核兵器開発を国際社会との駆け引きに用いる姿勢は危険きわまりない。

 原爆がどれほどの惨状をもたらしたか、まだ世界へ十分に伝わっていないのだろうか。この先もヒロシマ、ナガサキの証言を地道に広めていくしかない。

 被爆者は老い、その人数も少なくなってきた。証言や記録を継承していくため、アーカイブとして保存、収蔵、発信する態勢を急ぎ充実させなければならない。

 広島市は新年度から、証言活動を受け継ぐ次世代の人材養成に力を入れる。原爆投下直後の「黒い雨」をめぐるデータが昨年明らかになったように、埋もれた資料がまだあるかもしれない。発掘や収集に向け、公的機関を中心に不断の取り組みが必要となろう。

 広島県は昨年、「国際平和拠点ひろしま構想」を打ち出した。核テロの脅威を削減し、平和を構築するため、人材育成や研究集積に取り組むという。

 構想段階から実現へと歩みを進めていくには、市との連携も問われよう。

 民間も動く。被爆体験記や反核運動の資料収集のため、作家の大江健三郎さんらがグループを結成した。被爆地の体験をユネスコの「記憶遺産」に登録することも視野に入れているという。

 被爆地の責務はこうした体験継承だけにとどまらない。

 昨年の福島第1原発事故まで、私たちは原子力の軍事利用と平和利用を別々に考えるきらいがあった。だが原発も事故を起こせば制御不能となり、ヒバクシャを生みかねない。

 広島は今こそ「人類と核は共存できない」という被爆者の声を全世界に届けなければならない。

 各国首脳に被爆地訪問を促し、核兵器禁止条約の交渉開始を求めることなど課題は尽きない。被爆者の肉声を国際社会が共有できるかが鍵となろう。

(2012年1月6日朝刊掲載)

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