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社説・コラム

社説 原発の寿命「40年」 曖昧さへの懸念拭えぬ

 原発の安全性を高めるため、原子炉等規制法の見直し案を細野豪志原発事故担当相が発表した。運転開始から40年たてば原則として廃炉にするという。

 これまでは運用上、30年を超えると国が安全審査し、10年刻みでの運転延長を認めていた。初めて原発の寿命を法に定める意味は小さくない。

 だが手放しでは歓迎できない。40年を超えても延命が可能な「抜け道」が残るからだ。「延長できるのは例外的だ」と細野氏は厳格な運用を強調するが、多くの国民は納得しづらいのではないか。

 国内の商業炉54基のうち、福島第1原発の6基も含めた19基が運転開始から30年を超えた。福島第1の1号機など、うち3基は40年を過ぎている。

 年数がたった原発が多いのは、新増設が進まないことが大きい。既存原発を長持ちさせる方がコスト面からも有利とされる。

 ところが運転開始から36年の玄海1号機(佐賀県)では、原子炉の圧力容器が中性子を浴びることで、想定以上に劣化が進んでいる可能性が指摘されている。

 これに対し見直し案では、原発事業者が40年を超える延命運転を申請した場合、経年劣化の状況などを調べて問題がなければ認めるとの項目が盛り込まれた。その詳しい基準を明示していないことも含め、違和感は拭えない。

 国のエネルギー政策全般に通じる曖昧さが今回も露呈したと言えないだろうか。

 野田佳彦首相は原発の輸出に前のめりで、前政権が掲げた「脱原発依存」はかすみつつある。太陽光や風力など再生可能エネルギーをどう増やしていくかの工程表もはっきりしていない。

 そうした段階での寿命の法定化である。厳密に実行すれば自然と脱原発依存は進むことになろう。だが、曖昧な延命措置が残れば、当面の再稼働に向けた「地ならし」が最大の目的とみられても仕方あるまい。

 少なくとも国民が納得できるまで説明を尽くすことが、例外扱いの大前提となろう。40年を超えた敦賀と美浜の各1号機(いずれも福井県)への判断が注目されるゆえんだ。

 中国地方では島根1号機が運転開始から38年近い。今回の見直し案に地元の松江市長が「不明な点がある」と述べるなど、地域が困惑するのも無理はない。

 見直し案には、炉心溶融(メルトダウン)など過酷な事故への対策を全ての原発に義務付ける内容も盛り込まれた。これまで電力会社の自主的な取り組みに委ねていた。規制強化は遅すぎるほどだ。

 福島の事故をみても、国と電力会社とのなれ合いが危機管理意識の甘さにつながった面は否定できない。4月に発足する原子力安全庁はまず、互いの緊張関係が不可欠だと肝に銘じてもらいたい。

 安全の「お墨付き」をする重さを自覚し、意識改革も進めなければ、規制の実効性は上がらない。

(2012年1月8日朝刊掲載)

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