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社説・コラム

社説 除染と帰還 避難者の意向 最優先に

 野田佳彦首相の要請を、福島県民がすんなり受け入れられないのも無理はなかろう。

 除染で生じる汚染土壌の中間貯蔵施設を同県双葉郡内に建設するために協力を―。今年初めて福島入りした野田首相の求めに対し、佐藤雄平知事らは強い不快感をあらわにした。

 背景には昨年末、早々と事故の「収束」を宣言した首相への不信感がある。「避難者の帰還が収束だ」と知事はかみついた。

 生活再建に向け、まさにこれからが正念場だ。春には、年間被曝(ひばく)放射線量に従い、現在の避難区域が3区域に再編される。  年20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」、20ミリシーベルト超で50ミリシーベルト以下の「居住制限区域」、50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」である。

 帰還するか、断念するか。避難者に現実的な選択を突き付けることになる。国の信頼が失われたままでは、前には進めまい。

 帰還のための最重要課題は放射性物質の除去である。学校などの教育施設や宅地で除染を徹底すべきなのは言うまでもない。

 根底から見直す必要があるのは農地である。現在の避難区域の大半は中山間地域にある。

 山の懐に抱かれた農地を除染しても、雨が降れば森から汚染物質が流れてくる。地元では「膨大な費用をかけても意味がない」という指摘も出ている。

 1枚の田でも場所によって汚染の度合いは違う。表土を機械的に削り取るだけの手法を疑問視する人も多い。農地や用水の流れを知る農家の協力を得て、場所に応じた方法を探る方が効果的だろう。

 セシウム以外の放射性物質への不安も募っているようだ。ストロンチウムやプルトニウムについてもより細密に測定し、実態を公開していくべきだ。

 元の場所に帰還するかどうかについては、避難者の間でも意見が分かれるに違いない。困難だが、集落単位で意見を集約していくことは避けられまい。

 「除染をしても若い世代は戻らない」「帰りたいと帰れるは違う」という現実に避難者は直面している。生活再建に向けた最善策は何かを議論する時だろう。

 例えば、1700世帯の飯舘村の除染費用は3200億円と見込まれる。除染に限らず土地買い上げや起業支援など多様な選択肢を示すことも求められている。避難者の意向を最優先に考えることが欠かせない。

 除染とセットで整備しなければならないのが、中間貯蔵施設である。政府は「貯蔵開始から30年以内に県外へ持ち出して最終処分する」との方針を示しているが、実現の保証はない。

 福島第1原発が立地する双葉町の町長は反対の姿勢を明確にしている。なし崩し的に最終処分場と化しはしないか。現地ではそんな懸念もあるだろう。

 地元合意を得るには、住民本位の施策を地道に積み重ね、国が信頼を取り戻していくしかない。

(2012年1月10日朝刊掲載)

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