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社説・コラム

社説 イラン情勢緊迫化 強硬一辺倒では不安だ

 イランの核開発疑惑をめぐり、ここにきて中東情勢が一気に緊迫の度合いを増している。

 経済制裁の切り札として各国に原油輸入停止を呼び掛けた米国。反発したイランは目の前のホルムズ海峡封鎖に踏み切る構えだ。

 世界の原油の2割が通る交通路である。警戒を理由に、米国は空母2隻を派遣した。イラン海軍も米軍側への挑発を繰り返し、まさに一触即発の状態といえる。

 もし武力衝突になれば世界経済は大混乱に陥る。冷静かつ慎重な対応が求められよう。

 むろん最大の原因はイランにある。国連の4度にわたる制裁決議にもかかわらず、ウラン濃縮を続けている。平和利用としては不自然な高濃度とみられている。

 昨年11月には国際原子力機関(IAEA)が核兵器開発の可能性が高いとする報告書を公表した。米国が制裁強化に動いたのはこのためだ。イラン原油輸入国の金融機関に、半年後から制裁を科す新法を制定。欧州連合(EU)諸国も基本的に同調する。

 だがイランには、IAEA自体が米国べったりに映るようだ。最近も新たな濃縮施設を稼働させるなど、聞く耳を持たない。自国内で核科学者が何者かに暗殺される事件も発生し、米国に加えて敵対関係にあるイスラエルへの憎悪をむき出しにする。

 対立の連鎖がエスカレートする前に解決の糸口を見いだしたい。一定の経済制裁はやむを得ないとしても、軍事力を背に強硬一辺倒で臨むのはいかがなものか。

 中国は禁輸制裁には応じず、イランで原油が余れば買い取る意向とも伝えられる。米主導の包囲網の効果も限界があろう。

 イランとの関係が良好な日本の役割も問われる。なのに米国から禁輸への協力を求められ、右往左往しているように見える。

 米財務長官に「計画的に原油輸入を減らす」と明言したのは安住淳財務相。一方、玄葉光一郎外相はフランスの外相に制裁に慎重な意向を伝えた。野田佳彦首相は「安住氏が個人的に話した」と会見で弁明する始末だ。相変わらずの外交力の低さを露呈している。

 イラン産の原油は輸入の1割。原発停止で火力への比重が高まっただけに、減らせば電力供給にも響く。安易な対米追従ではなく、エネルギー確保策と併せた腰の据わった外交戦略が欠かせない。

 米国の強硬姿勢の裏には、経済政策の失点を挽回しようというオバマ大統領の再選戦略も見え隠れする。かねて米軍はイラン空爆を想定した訓練を重ねているとみられ、共和党の一部などには開戦を主張する声もあるという。

 だが経済制裁で追い込み、戦争でけりをつける手法が失敗するのはイラクを見ても明らかだろう。二の舞いとしてはならない。

 事実上の核保有国イスラエルに、これまで以上に厳しい目を向ける姿勢も不可欠だ。中東全体で非核化の機運が高まってこそ、イラン問題の解決につながろう。

(2012年1月15日朝刊掲載)

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