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社説・コラム

『記者手帳』 苦難の証言 胸震える

■報道部 田中美千子

 キリシタン弾圧と原爆―。二つの苦難の歴史が語られた。昨年11月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で始まった原爆展の開幕イベント。神学生だった14歳の時、長崎市で被爆した深堀繁美さん(80)の講演に胸が震えた。

 原爆投下時、動員先の造船所で防空壕(ごう)に逃げ込み、命拾いした。だが、爆心地から約500メートルの実家付近にいた4人のきょうだいを失った。

 信仰の拠点だった実家そばの旧浦上天主堂も倒壊した。弾圧に耐えた信者が生活を切り詰めて赤れんがを1枚ずつ積み上げ、30年かけ建てたという。「原爆は罪なき人の命を奪う。彼らが長年かけて築き上げた文化も奪う」。深堀さんの紡ぐ言葉が響いた。

 深堀さんが被爆体験を語り始めたのは被爆から66年が過ぎた昨年。「言葉は限界がある。あの惨状や遺体の臭い…。『本当のこと』は伝えきれないから話すべきでないと思ってきた」

 年上の戦争経験者が当時を語る姿を見たのが転機となり、次世代へ語り継ぐことを決意した。少しでも「あの日」を分かってもらおうと証言内容を必死に考えた、という。

 広島にも「今伝えんと」と語り始めた被爆者のお年寄りがいる。しっかりと声を聞き、平和への思いを紙面に刻みたい。

(2012年1月16日朝刊掲載)

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