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社説・コラム

社説 原発の再稼働問題 真の安全 保証できるか

 ひたすら原発の再稼働を目指す動きに違和感が拭えない。政府が安全をどう考えているのかも、いまひとつはっきりしない。

 関西電力による大飯原発3、4号機(福井県)の安全評価の1次評価結果について、経済産業省原子力安全・保安院が「妥当」とする審査書案をまとめた。

 2月にも正式な審査書を作成して原子力安全委員会のチェックも受ける。最終的には野田佳彦首相らが運転再開の是非を判断する段取りになっている。

 東京電力福島第1原発の事故から10カ月。定期検査などにより、国内の稼働中の商業用原子炉は54基中5基にまで減った。再稼働がなければ、4月には全て止まる。

 夏の需要期に向け、必要な電力は確保しなければならない。とはいえ、安全・安心を置き去りにした「まず再稼働ありき」の対応では、立地地域に限らず、国民の理解は到底得られまい。

 安全評価は停止中の原発の運転再開条件として昨年7月、政府が電力会社に課した。欧州連合(EU)が始めたストレステスト(耐性評価)を参考にしている。

 地震、津波、全電源喪失などが起きた際、燃料損傷に至るまでに安全上の余裕がどれくらいあるかをコンピューターで解析する。

 大飯原発をはじめ、これまでに7社が14基分の1次評価結果を政府に届けた。島根原発(松江市)を抱える中国電力も再稼働する際には同じ手続きが必要になる。

 大飯原発の評価結果は、地震は想定した揺れの1・8倍の強さ、津波は4倍の高さまで、それぞれ耐えられるとしている。

 これに対し地元の福井県は「机上のシミュレーションでしかない」と指摘する。再稼働の判断にどうつながるかの基準も不明確とし、国がゴーサインを出しても直ちには認めない姿勢だ。県民の安全を守る立場からは当然だろう。

 福島の事故では、津波への備えを怠った上、運転員の知識や訓練不足が事態を悪化させた要因といわれる。しかも、「人災」の側面はいまだ解明途上だ。

 そうした段階なのに、従来の基準に机上の計算を加えたところで果たして、安全確保は十分といえるのだろうか。

 何より政府自身が、事故の反省を取り入れて新たな安全基準をつくると表明していたはずだ。

 新たに規制機関となる原子力安全庁が4月に発足する。同時に事実上解体される保安院が、原発の再稼働に向けた「お墨付き」を準備する現状も、すっきりしない。

 野田政権は原発の寿命を法律で「原則40年」にするとしながら、官僚が「60年まで延長できる」と説明するなど、このところ腰がふらついている。それは、原発も含めたエネルギー政策の将来像が描けていないためでもあろう。

 小手先で再稼働を模索するよりも、徹底した事故原因の究明が先決だ。それを踏まえ、原発の安全をどう構築するのか。政府は明確な考え方を示してもらいたい。

(2012年1月20日朝刊掲載)

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