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社説・コラム

社説 広島の折り鶴活用 平和発信の新たな力に

 平和記念公園(広島市中区)の原爆の子の像に、国内外から折り鶴の束が連日届く。年に1千万羽、重さ10トンという膨大な量をどうすればいいのか。10年越しの懸案が、やっと決着しそうだ。

 昨年4月の市長交代に伴って市が設置した検討委員会は、市民主体の活動に折り鶴を提供し、再生紙づくりや平和行事などに広く活用してもらう方針を打ち出した。それまでの「長期保存」の構想から百八十度転換した格好になる。

 若い世代の参加を促し、新たな形で平和を発信できるなら、大きな意味を持とう。

 像ができた1958年以降、修学旅行生らが自然と持ち寄り始めた。2002年度から焼却を中止したのが秋葉忠利前市長。一部を展示しつつ、半永久的に保存するミュージアム実現を目指した。

 回収後はごみ同然だった折り鶴に光を当てたこと自体は評価できよう。ただ20~30年分を展示する構想には大規模な施設が要る。劣化防止の作業も大変だ。厳しい財政事情も考えると、現実的には無理があったと言わざるを得ない。

 松井一実市長は長期保存の代わりに、「託された思いを昇華させる」との考えだ。被爆者や研究者らでつくる検討委が昨年末に公表した中間報告は、それに基づく。

 像のそばのブースで一定期間展示した後、使いたい団体や学校、地域に渡すのが基本スタンス。活用方法は固定しないという。

 公募したアイデアを基に、いくつか具体例が示されている。小さく分けて来訪者に進呈したり、平和を祈るセレモニーで「焚(た)き上げ」をしたり。再生紙づくりでは体験プログラムを用意し、修学旅行生に加わってもらう案もある。

 昨年の8・6で流した灯籠に折り鶴再生紙を使うなど、試験的な取り組みも先行実施されている。

 こうした方法の最大のメリットは、被爆地だけでなく各地の人たちを巻き込み、すぐにも平和発信の輪を広げられることだろう。

 近く検討委がまとめる最終報告を踏まえ、市は具体化を図るようだ。軌道に乗せるには積極的なPRとともに、市がどのようなサポート機能を担うかが鍵を握る。

 課題もある。保管中の総量は約100トンに上る。実際にどれほど使ってもらえるかは未知数だ。残った分はどうするのか。

 方針変更が市民に戸惑いを残すのも確かだ。現在も旧日本銀行広島支店(中区)に1年分を展示するが、取りやめる方向という。十分な説明が求められよう。

 折り鶴の寄贈者名やメッセージは記録して公開してきた。今後も継続し、各地の学校や団体との交流などへと一歩進めてほしい。

 折り鶴を平和の象徴としたのは佐々木禎子さんと、像の建立に立ち上がった子どもたちだ。小さな祈りは海外に広がり、今や日本の「平和文化」ともいえる。

 美術や舞台など国際的な芸術活動にどしどし提供する手もあろう。これからも活用方法の議論は重ねていきたい。

(2012年1月23日朝刊掲載)

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