×

社説・コラム

社説 島根原発の全停止 福島の教訓どう生かす

 中国電力島根原子力発電所(松江市)で、2号機が定期検査に入った。一昨年から停止中の1号機、建設中の3号機を含め、運転の見通しは立っていない。

 当面の電力需給への影響について、この冬場はほかの電源で対処できるという。需給が逼迫(ひっぱく)している隣接の関西、九州電力に融通しているほどだ。

 これまで中電は原発のウエートが低いと嘆いてきた。しかし福島第1原発の事故後、原発停止の影響は他社に比べて最小限にとどまっている。今後の対応も、それだけ冷静に検討できよう。

 電力業界は夏場に供給力の余裕が狭まると懸念を強めるものの、枝野幸男経済産業相は全国での原発ゼロ状態を想定。春先には対応策をまとめ、公表する。早期の再稼働が困難とみての判断だろう。

 何より事故の検証がまだ終わっていない。徹底した原因究明の結果を踏まえた再発防止、安全確保を最優先するべきだ。

 事故の教訓を生かし、4月に発足する原子力規制庁をはじめ幅広い分野の専門家によるチェックを受けるのが当然である。

 その上で、原発が立地する地元だけでなく、できるだけ広い範囲の地域から理解を得なければなるまい。避難計画の策定を迫られている自治体への配慮も要る。

 当面、冬と夏の電力需要ピーク時を、原発なしで乗り切るためにあらゆる手だてを尽くすべきだ。

 水力、火力発電所を活用するだけでなく、太陽光、風力など再生可能エネルギーの普及を加速させよう。産業、生活両面から節電もさらに徹底したい。

 原発への依存度を下げる具体策も国が早く示す必要がある。

 野田佳彦首相は昨年9月の就任記者会見で「寿命が来た原発は廃炉。新設は困難」と述べた。この姿勢に沿って個別の原発をどうするのか、明確にしてもらいたい。

 発言を素直に受け取れば、新規立地の可能性は限りなくゼロに近い。建設前から予定地にカネがおりる現行の交付金制度も早急に見直すべきではないか。

 既設の島根原発はどうだろう。

 運転開始から38年になる1号機は、原子炉等規制法の見直し案に盛り込まれた寿命「40年」を一つの目安にできる。廃炉への工程を明示することが求められよう。

 一方で判断が難しいのが、完成間近だった3号機の扱いである。改良型の炉として安全設計が1、2号機より優れていると中電などは強調する。既に4600億円の建設費が投じられている。

 首相発言では3号機を新規に含めていたが、藤村修官房長官が直後に修正した。政府の見立てが定まっていないと地元は困惑する。  新たな安全策は当然として、地元の意向を最大限尊重した上で、丁寧な議論が欠かせない。

 いったん大事故が起こると取り返しがつかないのが原発である。大方の国民が骨身にしみたはずだ。停止中の今こそエネルギーのあり方を問い直す契機にしたい。

(2012年1月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ