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社説・コラム

社説 アラブの春1年 民主化の逆行許さない

 中東・北アフリカ地域で、若者をはじめ街頭に繰り出した民衆が次々に独裁政権を倒した。「アラブの春」が開花して1年になる。

 チュニジア、エジプトでは公正な選挙による新たな国づくりへの期待が膨らむ。半面、米英やフランスなどの軍事介入によりカダフィ政権が倒れたリビアは針路が見えにくい。民主化はいまだ道半ばと言わざるを得ない。

 とりわけ焦点になっているのが昨年来、反体制デモへの武力弾圧を続けるシリアである。国連安全保障理事会で事態収拾に向けた協議が始まっている。

 軍出身のアサド大統領は2000年に父親の前大統領から権力を引き継いだ。近隣諸国で長期政権が相次ぎ崩壊したのに危機感を募らせたのか、デモ弾圧を強めて体制存続を図ってきた。

 既に5千人以上が犠牲になった。一般市民への武力行使をこれ以上見逃すわけにはいかない。

 中東・北アフリカの21カ国とパレスチナ自治政府でつくるアラブ連盟は昨年11月、アサド政権の民衆弾圧を非難して、連盟会合への参加資格を停止。通商や政府高官の訪問禁止など制裁を科した。

 同じ地域の仲間から警告を受けたにもかかわらず、シリアは強硬姿勢を崩さない。

 このため連盟は先月、アサド大統領の退陣と反体制派を含めた「挙国一致内閣」の発足を求める提案をまとめた。これまでより踏み込んだ内容で、安保理協議のたたき台になっている。

 地域全体の平和と安定を図るためにも、国際組織であるアラブ連盟の判断を後押ししたい。

 ただ拒否権を持つ常任理事国のうちロシアが反対している。シリアと友好関係にあり、拘束力のある安保理決議が米英などの介入につながるとみるからだ。中国もロシアに同調する公算が大きい。

 事態の悪化を何とか食い止めなければならない。

 ロシアは一方でシリアのアサド政権と反体制派との交渉を仲介する用意があるという。ならば一刻も早く、武力弾圧を停止するよう政権側に促すべきではないか。

 シリア情勢がアラブ民主化を逆行させる引き金になっては、これまでの成果が損なわれる。

 議会選挙を実施したばかりのエジプトでは実権をなかなか手放さない軍部への批判が強まっている。反体制運動をリードしてきた若者らの不満は当然だろう。今後の大統領選挙に向けて、軍からの権限移譲を急ぐべきである。

 各国の選挙では国民との結びつきが強いイスラム政党が多数を占めている。この傾向はこれからも変わらないだろう。

 宗教色をいたずらに濃くしたり宗派間の対立を深めたりせず、民主的な政権運営のために世俗勢力との連携を強めてもらいたい。

 アラブの春は独裁政権を倒しただけでなく、大国の地域支配にも終止符を打つ運動といえる。民主化が広がれば、国際社会でアラブ世界の存在が重みを増す。

(2012年2月3日朝刊掲載)

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