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オバマ氏 ノーベル平和賞 「核なき世界」評価

 ノルウェーのノーベル賞委員会は9日、2009年のノーベル平和賞をバラク・オバマ米大統領(48)に授与すると発表した。同委員会は「核兵器なき世界」の実現に向けたオバマ氏の構想と努力を特に高く評価。国際協調主義や気候変動問題での建設的役割に加え、「世界に将来への希望を与えた」ことを授賞理由に挙げた。

 オバマ氏は大統領就任から9カ月足らずでの栄誉。核廃絶の理想実現に向けた努力は緒に就いたばかり。実績が少ない段階での極めてまれな授賞決定には、歴史的高まりを見せる国際社会の機運を後押しし、核兵器が国の安全保障をもたらすとの発想の転換を促す狙いがある。

 オバマ氏は授賞決定を受けホワイトハウスで、受諾声明を発表、核廃絶の取り組みは「1人の指導者や1カ国では達成できない」と述べ、世界各国の協力を呼び掛けた。

 現職国家首脳の受賞は2000年に朝鮮半島の南北和解への貢献を理由に受賞した当時の韓国大統領の故金大中(キムデジュン)氏以来。

 オバマ氏は昨年11月の大統領選で、国際社会の反対を押し切り開戦に踏み切ったイラク戦争など一国主義の外交や核軍縮に後ろ向きだったブッシュ前政権の政策転換を掲げ、黒人として米国で初の大統領に当選。

 今年4月にはチェコ・プラハでの演説で広島と長崎への原爆投下を念頭に「核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」と述べ、核廃絶に向けた包括的構想を提唱。6月にはカイロで米国とイスラム社会の「疑念と不和の連鎖を断ち切らねばならない」と訴えた。

 核保有五大国の首脳が一堂に会した9月の国連安全保障理事会の首脳級会合では「核兵器なき世界」に向けた取り組みをうたった決議案採択を主導し全会一致で採択、核廃絶への歩を進めた。

 現職の米大統領では、1906年に日露戦争の講和調停でセオドア・ルーズベルト、国際連盟創設で19年に受賞したウィルソンに続き90年ぶり。02年にはカーター元大統領が受賞、07年にゴア元副大統領も賞を受けた。

 授賞式は12月10日にオスロで行われ、賞金1千万スウェーデンクローナ(約1億2700万円)が贈られる。大統領側近によると授賞式にはオバマ氏自身が出席する見通し。

授賞理由骨子

一、核なき世界に向けた構想と努力
一、国際政治で新たな環境を整備
一、国際紛争解決で対話と交渉を重視
一、気候変動で建設的な役割
一、世界により良い将来への希望を与えた


大変うれしい 秋葉忠利広島市長の話

 大変うれしく思う。(ノルウェーの)ノーベル賞委員会は、核兵器のない世界の実現に向けてオバマ米大統領を激励しようという気持ちと、「一緒に行動しますよ」という意思表示もあったのだろう。予想がぴったり当たった。来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でもリーダーシップを発揮してくれるだろう。広島、長崎を訪問する環境が徐々に整ってきていると思う。


<解説>理想の実現 期待込める

 ノーベル賞委員会は、オバマ米大統領へのノーベル平和賞授与の決定で、同氏の掲げる「核兵器なき世界」への外交努力にお墨付きを与えるとともに、米国がブッシュ前政権のような一方的な「力の外交」に戻らないようメッセージを送った。オバマ氏は賞の重みを支えに、核廃絶に向け国際社会と一層努力することを強く期待されている。

 同委員会はここ10年、平和に極めて重大な影響を与える米政権の動向を最も注視してきた。2001年の米中枢同時テロ直後は国連に平和賞を授与し、米軍のアフガニスタン攻撃の最中、多国間外交の重要性を訴えた。

 翌02年には、中東和平に尽力したカーター元米大統領に平和賞を贈り、アフガンからイラクへと「対テロ戦争」拡大を図るブッシュ米大統領(当時)への批判と言われた。07年のゴア前米副大統領(同)への授賞も自国の経済的競争力を優先し、気候変動対策に消極的だったブッシュ氏への批判の意味が込められた。

 そうした流れの中、ノーベル賞委員会は今回も、米国に世界を変えてほしいとの願望を託した。

 オバマ氏が取り組む核軍縮は、12月に期限が切れる米ロの第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる米ロの新条約締結問題など、難しい局面に入る。さらに、米国の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准や、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で正念場を迎える。

 一方、オバマ氏に触発された具体的な核軍縮の動きは、米国の同盟国の英国が核兵器搭載原潜の削減を検討している程度。核廃絶は「理念が先走り」との冷ややかな見方もある。

 このため、ノーベル賞委員会は、平和実現に向けた「世界を主導する代表者」(同委員会)のオバマ氏を支え、安易な妥協で核廃絶の機運を損ねることなく、理想にまい進してほしいとの願いを込めたとみられる。

バラク・オバマ氏
 1961年8月4日、米ハワイ州ホノルル生まれ。48歳。父親はケニア人、母親は米国人。コロンビア大卒、ハーバード大法科大学院修了。黒人として、初めて学内の権威ある専門誌「ハーバード・ロー・レビュー」の編集長を務めた。大学院講師、弁護士を経て1997~2004年、イリノイ州議会上院議員。2004年に民主党大会の基調演説で脚光を浴び、同年にイリノイ州から上院選に出馬し当選した。2008年8月、民主党の党大会で大統領候補に指名され、11月の大統領選で初当選した。ミシェル夫人との間に2女。

核なき世界
 オバマ米大統領が4月5日、「核兵器のない世界」の実現に向け、チェコの首都プラハでの演説で示した包括的構想。「核兵器を使用したことがある唯一の国として米国には道義的な責任がある」と言明し、具体的措置を取ると宣言した。国連安全保障理事会は9月24日、核軍縮・不拡散をテーマにした初の首脳級会合を開催、米国が提出した「核兵器のない世界」に向けた取り組みをうたった決議案を全会一致で採択した。

(共同通信配信、2009年10月10日朝刊掲載)

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