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社説・コラム

社説 岩国への海兵隊移転案 「ノー」と言うのが筋だ

 寝耳に水とはこのことだろう。米国が在沖縄海兵隊の一部を岩国基地(岩国市)に移転させる案を日本政府に打診してきたという。

 グアムへの移転計画の見直しに伴って急浮上した。沖縄から移る海兵隊員を8千人から4700人に縮小し、残りの半分近い1500人前後を岩国に置きたい。それが米側の腹づもりのようだ。

 だが本来なら海外に出る部隊であり、沖縄の負担軽減には結びつかない。たらい回しで日本にとどめること自体も疑問である。

 しかも岩国基地は米軍再編で厚木基地(神奈川県)の空母艦載機部隊の受け皿となる。地元からすれば、それ以上の負担は到底受け入れられない話だ。

 打診内容の詳細は明らかではない。対象となるのは、懸案の普天間飛行場とは関係のない航空支援の部隊とも報じられている。  なぜ岩国なのか。米側の一方的な都合に違いあるまい。

 もともと移転先となるグアム基地はインフラ整備が大幅に遅れ、米議会から予算を削減されている。そこに中国をにらんだ新国防戦略に基づき、海兵隊の拠点を分散させる理由ができた。

 グアムに移す人員を半減し、残りはアジア・太平洋地域に振り分ける―。そのプランを練る中で、岩国の名が挙がったのだろう。

 オバマ政権の国防費縮小で米軍の台所は苦しいが、日本国内なら駐留経費は払わなくていい。さらに岩国は沖合移設で基地を広げ、愛宕山の米軍住宅化のめども立っている。そうした点が、米側には魅力的に思えたのかもしれない。

 ただ地元の状況を考えると、現実には無理と言わざるを得ない。

 山口県も岩国市も米軍再編自体には反対していない。先月の市長選で再選された福田良彦市長も艦載機移転には協力姿勢を示すが、「これ以上の負担には応じられない」との姿勢は堅持する。

 新たに1500人もの部隊が移転すれば一体どうなるのか。地元が態度を硬化するのも当然だ。二井関成知事は「国に対して大きな不信感を持っている」と述べ、愛宕山の売却凍結まで示唆した。

 この案を強引に進めれば艦載機移転にも波及し、岩国が「第二の辺野古」となりかねない。そんな危惧は政府の側にもあるようだ。  米軍再編をめぐっては水面下で話を進め、地元の頭越しで決める手法が繰り返されてきた。野田佳彦首相はきのう「協議は日米間で行っていない」と述べたが、打診があったことはもう隠せまい。

 まずは十分に説明してもらいたい。その上で「現実的ではない」と米側にはっきりと意思表示し、8千人全ての海外移転をあらためて約束させるのが筋だろう。

 岩国だけではない。今回、普天間問題はグアム移転と切り離された。現状のまま固定化される懸念も強まっている。

 ここまで中身が変容するなら、「パッケージ」とされてきた米軍再編の枠組み自体をゼロから考え直すべきである。

(2012年2月8日朝刊掲載)

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