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社説・コラム

原子力扱う資格 国になし 環境エネルギー政策研究所長 飯田哲也氏

 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の基本問題委員会は、国内の総発電量に占める原子力発電所の割合を2030年に53%に高めるとしたエネルギー基本計画の見直しを議論している。同委員で「脱原発」を訴えるNPO法人環境エネルギー政策研究所(東京)の飯田哲也所長(53)=周南市出身=に、脱原発の視点や中国地方の原発の在り方などを聞いた。(藤村潤平)


 ―なぜ「脱原発」なのですか。
 原子力も火力と同じで燃料がなくなれば、発電できない持続不可能なエネルギー。太陽光など持続可能な自然エネルギーに転換するべきだ。原発はコストも高い。核廃棄物は最後はどう処分するのか見えていないし、原発事故を無限責任でカバーしようとするとコストは桁違いの金額になる。

 福島第1原発事故は日本という国が原子力を扱う資格がないことを明確にした。起きないと言った水素爆発が起き、100億円以上かけて整備した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を避難に使わなかった。それなのに、安全性を担保せずに原発を再稼働させようとしている。事故以前と同じ構造に戻る恐れがある。

 ―中国電力島根原発1号機(松江市鹿島町)は運転開始から38年を迎えます。
 政府がいう40年廃炉は妥当な考え方だ。原子炉という複雑なシステムが中性子でどのように劣化するかを検証するのは不可能。未知のリスクがある以上、一定期間で廃炉すべきだ。しかも島根1号機は福島と同じ初期型の原発。60年という例外を設けるなどは問題外だ。

 電力会社は原発を少しでも長く運転したいだろうが、トラブル発生率の高い原発は40年より前に自ら廃炉にする仕組みが必要だ。例えば、事故に備えて損害賠償の拠出金を電力会社から集め、原発のトラブル率に応じてさらにお金を出させるようにすれば、コスト面から廃炉を決断するようになる。

 ―上関原発(山口県上関町)の新規着工やほぼ完成している島根原発3号機はどうすべきですか。
 上関など着工前の新規原発はすべて中止が大原則。建設計画は即時放棄でいい。中止の補償も地元は別だが、国から中電へは必要ない。自己責任だ。

 一方、島根3号機は難しい問題だ。中電からすると、新設の3号機への莫大(ばくだい)な投資を回収しないといけないから切実だろう。ただ、運転しようとしても4月末に国内の全原発が停止すれば、運転開始の時期はより不透明になる。中電が「3号機は稼働せず廃炉にしたい」と言うなら、欠損は国が埋めることを考えてもいいのでは。

 ―中国地方では、日射量が多い瀬戸内を中心に大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設の動きが加速しています。
 メガソーラーができたから自然エネルギー先進地になるわけではない。東京の大企業が大銀行と組んで収益を上げる「自然エネルギー植民地」になるだけだ。地域の社会的な企業が中心となり、地方銀行や市民の直接出資によってエネルギーとお金が循環するような仕組みが必要だ。

 太陽光発電の機械やパーツを作る工場など、中国地方に足場を置いたビジネスや研究機関が発展してこそ先進地になれる。

 ―被爆地広島に期待すること、考えてほしいことは何ですか。
 広島は核兵器廃絶の運動の中心ではあったが、これまで原発問題に関しては「核の平和利用」という考えや中電のお膝元ということもあってか、熱心ではなかった。

 しかし、国土が放射能で大量に汚染されたという意味では、福島は広島、長崎に続いて3番目の核災害地だ。核兵器や8月6日を考える運動だけでなく、原子力の問題点を見据えた運動に昇華する必要がある。

いいだ・てつなり
 1959年生まれ。徳山高卒、京都大大学院工学研究科(原子核工学)修士課程修了。スウェーデン・ルンド大客員研究員などを務め、2000年に環境エネルギー政策研究所を設立した。大阪市特別顧問を務め、橋下徹市長が筆頭株主として求める関西電力の原発依存度引き下げの株主提案などを担当する。著書に「エネルギー進化論」など。

中国地方の原発
 既存施設は中国電力の島根原発1号機(出力46万キロワット)と2号機(82万キロワット)の2基。1号機は2010年3月、点検不備問題を受けて運転停止。2号機も12年1月27日に定期検査のため停止し、中国地方で稼働する原発はゼロとなった。ほぼ完成している3号機(137万3千キロワット)の稼働は未定。計画段階の上関原発は1号機が18年3月、2号機が22年度の運転開始を目指すが、中電は11年3月の福島第1原発事故後に海面埋め立て工事を中断している。

(2012年2月6日朝刊掲載)

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