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社説・コラム

『潮流』 米国防予算とイワクニ

■論説主幹 江種則貴

 膨大な財政赤字を少しでも減らそうと、米国が今年10月からの2013会計年度で国防費を約5%カットするという。

 イラクやアフガニスタンからの撤退を受け、対テロ戦費を大幅に減らすのは自然の流れである。むしろ、それ以外の一般国防予算に切り込んだ意味合いが大きい。米同時中枢テロ以降では初めてだ。

 世界の平和と安定を反映する軍事費削減なら歓迎できる。ところが、それほど単純な話ではない。

 切り詰めたところで国防予算の総額は約47兆円にも上る。世界中ににらみを利かせる軍事超大国の座は揺るぎそうにない。

 在日米軍をはじめアジア・太平洋地域の兵力も温存されそう。中国の軍拡に対抗し、オバマ大統領がこの地域を重視するためだ。

 予算カットのとばっちりを被ったのが岩国だった。

 沖縄からグアムへの海兵隊8千人の移転がはかどらず、米側は突然、うち1500人の岩国移転を打診してきた。米側は「岩国が難しければ1500人は沖縄に残る」との物言いもしたとされる。

 玄葉光一郎外相は記者団にこう述べた。「みんなで負担を分かち合う気持ちを持たないと」。岩国に受け入れを促す発言と受け取られても仕方あるまい。

 沖縄の負担軽減を図るのは当然である。だが、日米の政府間合意であるグアムへの移転を「沖縄か岩国か」の二者択一にすり替えては、誰も政府を信用しなくなる。

 このところ日本外交は、米国と中国に挟まれて右往左往してはいないか。岩国への打診をきっぱり断るのを機に、地域の軍縮と平和構築に向け、毅然(きぜん)とした姿勢を貫いてもらいたい。

(2012年2月15日朝刊掲載)

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