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社説・コラム

社説 辺野古アセス 知事の「ノー」が示す重み

 日本政府の性急な進め方に、地元があらためて「ノー」を突きつけた。

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事が政府の環境影響評価(アセスメント)評価書に対する意見を沖縄防衛局に提出した。

 移設されれば、辺野古周辺の住民の静かな暮らしも豊かな自然環境も「保全できない」。そう明確に結論づける内容だ。「地元の理解を得られない移設案の実現は事実上不可能」とも明言している。

 政府はその重みを真正面から受け止めるべきだ。

 もともと政府は昨年末、未明という非常識な時間帯に評価書を県庁に運び込んだ。県民の不信感を増大させる騒動だった。

 中身からも住民の不安を察することができる。とりわけ垂直離着陸輸送機MV22オスプレイに関連するくだりは首をかしげる。

 普天間に配備されると早くから伝わっていたが、政府は評価書の段階になって初めて記載した。関係市町村の意見も聞いていない。

 「手続きの最終段階に至って重要な環境情報が提示、変更された」と知事意見が厳しく指摘するのも当然だろう。

 オスプレイ配備で懸念される低周波の騒音についても、評価書は一部地域で基準値を上回るとしながらも「必ずしも影響が出るとは限らない」とした。

 政府は具体的な訓練飛行ルートの予測は「困難」とする。それならなぜ、影響が軽微といえるのだろうか。

 知事意見が「基準値を超える影響の評価をしていない」と指摘するように、これでは「拙速で不十分なアセス調査」との批判の声がわき上がるのも無理はない。

 辺野古沖には絶滅危惧種ジュゴンの餌となる藻場がある。その影響についても評価書は「餌場への移動を阻害する影響はない」とする。一方、知事意見は「繁殖のための移動にも影響するおそれ」と見解が分かれた。

 これらを含め知事意見は計175件もの問題点を指摘した。これほどまで多くの疑問が示されること自体が、評価書の信頼性を大きく揺るがす事態といえよう。

 環境や生態系への影響を可能な限り最小限にとどめようというアセス制度の根幹にもかかわる。政府は地元の疑問に誠実に回答してもらいたい。

 気になるのは、ここに至っても政府が辺野古移設を唯一の選択肢としていることだ。近く沖縄入りする野田佳彦首相も、あくまで計画への理解を求めるとみられる。

 辺野古移設が頓挫すれば、普天間の固定化につながりかねないのは確かだろう。しかし、それでは沖縄の負担軽減という本来の趣旨が完全に損なわれてしまう。

 普天間を固定化させないと明言するのであれば、政府は辺野古移設が行き詰まったことを率直に認め、ただちに国外を含めた県外移設への模索を始めるべきだ。

(2012年2月22日朝刊掲載)

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