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社説・コラム

社説 米軍機の低空飛行 自治体の監視網広げよ

 中国山地で米軍機の低空飛行訓練が目立ち始めて、かれこれ20年近くになる。どれだけ怒りの声を上げても、収まる気配はない。  「いつ、どこを飛んでもいい」と認める日米地位協定を盾に、米軍が好き放題をしているのが実態といえよう。地元の自治体や住民には手詰まり感もあるようだ。

 最近は学校の真上を平気で低く飛ぶなど、地域の安心・安全を脅かすケースが増えている。何とか歯止めをかけたい。

 浜田市の動きが注目される。米軍機が多く飛来する旭支所に昨年末、市費で騒音測定器を置いた。島根県内では初めてだ。

 24時間体制でデシベルの数値をチェックし、この1月には著しい騒音だけで5回計測した。まさに「動かぬ証拠」となろう。

 市は岩国基地などの戦闘機が訓練を繰り返す空域「エリア567」の下にある。昨年は島根県全体の半分に当たる122件の目撃情報や苦情が寄せられている。

 以前は県への報告で済ませていた。姿勢を強めたのは昨年9月末の「事件」からだ。白昼、小学校の頭上でごう音が響き、子どもたちが思わず床に伏したという。

 市は抗議文を初めて日米政府に送ったが、返事もない。業を煮やした格好で、騒音測定のほか情報収集員の指定などに乗りだした。  目に余るケースは、むろん浜田市だけではない。

 別の訓練空域「ブラウンルート」に近い津山市では昨年3月、米軍機の衝撃波で民家の土蔵が壊れている。12月には三次市北部の小学校上空を超低空で飛んだ。

 低空飛行をめぐっては1999年の日米政府の合意がある。人口密集地や学校、病院には「考慮を払う」としている。だが実態からみると形骸化は明らかだ。

 訓練を中止できないというなら、もっと実効性を伴う中身に作り直すべきだ。例えばイタリア政府は自国内で米軍の訓練を中止させる権限を持つ。日米地位協定も同様の見直しが必要ではないか。

 その機運を高めるためにも、より詳細なデータが求められる。騒音測定については「本来は国がやるべきだ」との見方もあろう。しかし浜田市のような試みがあちこちに広がれば、米軍側への一定の圧力につながるかもしれない。

 自治体同士の連携を密にするのも当然のことだ。広島、島根両県は既に情報交換を始めているという。さらに共同での要請行動などへ踏みだしてもらいたい。

 新たな歯止めが急がれるのは、厚木基地(神奈川県)にいる空母艦載機部隊の岩国への移転準備が着々と進んでいるからだ。

 現在、艦載機が地上攻撃の訓練に使うのは群馬県上空である。最近、前橋市などの都市部も含めて騒音がエスカレートしている。

 そのまま中国山地に訓練が移ってくれば、騒音や事故の危険性が格段に高まることは容易に想像できる。これまで以上に危機感を持ち、足元の監視網のネットワーク化を進めるべきであろう。

(2012年2月27日朝刊掲載)

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