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社説・コラム

『潮流』 ビキニとフクシマ

■論説委員 田原直樹

 太平洋ビキニ環礁での米国の水爆実験により、マグロ漁船第五福竜丸が被曝(ひばく)して明日で58年になる。福島第1原発の事故後、初めて迎えるビキニデーである。

 人類と核について見つめ直す機会にしたい。そう思っていたら、気掛かりなことを耳にした。

 6月から福島県立美術館である展覧会に、米国の美術館が所蔵品約70点の貸し出しをやめるという。岡山など4カ所を巡るが、福島展だけは点数が減ることに。

 福島県立の学芸員に聞くと、米国側が作品や随行職員に放射能の影響が及ぶのを懸念したらしい。

 原発事故後、海外から美術品が貸し出されず、音楽家らも来日を控えた結果、各地で多くの展覧や公演が中止された。1年たち、落ち着いたと思ったが、福島に向けられる目は変わらぬようだ。

 それほどまでに放射能が与える恐怖心は根深く、容易に拭えないのだろう。分からぬ訳でもない。

 ただ残念な思いが強いのは、くだんの展覧会が米国の芸術家ベン・シャーン(1898~1969年)の回顧展だからでもある。

 冤罪(えんざい)事件を題材にするなど社会派として知られた。第五福竜丸の被曝に衝撃を受け、船名にちなみ名付けた連作「ラッキードラゴン」も手掛けている。

 福島での展覧こそ、絵画と写真など500点全てを並べ、多くの人が目にすべきものではないか。そうならないことを本人が知れば、嘆くに違いない。

 「死の灰」を浴びて半年後に亡くなった乗組員久保山愛吉さんを描いたシャーンの作品は福島県立美術館の所蔵品。こちらはもちろん福島にも並ぶ。見る人に深いメッセージを投げ掛けるはずだ。

(2012年2月29日朝刊掲載)

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