×

社説・コラム

社説 米朝の「核」合意 完全放棄へ方策尽くせ

 長らく停滞していた朝鮮半島非核化への歩みが、再び動きだすかもしれない。北朝鮮がウラン濃縮活動の一時停止などで米国と合意した。

 今後は北朝鮮が合意を履行するかどうか、しっかりと見極める必要があろう。確実な前進となるよう、関係国が方策を尽くさなければなるまい。

 発表によると、米側が栄養補助食品24万トンを支援する。これに対して北朝鮮側は、核実験と長距離弾道ミサイル発射を凍結する。

 さらに寧辺(ニョンビョン)でのウラン濃縮を一時停止し、監視のために国際原子力機関(IAEA)の要員復帰を認めるというものだ。

 先週、北京であった米朝協議は、いったんは成果なく終了したかに思われた。双方が本国に持ち帰り、最終確認を進め、合意に至ったようだ。

 金正日(キムジョンイル)総書記が死去する直前に交わしていた内容と、ほぼ同じである。「遺訓」ともされていた合意に、北朝鮮が従った背景には国内事情がのぞく。

 食糧支援の確保で民心を掌握し、金正恩(キムジョンウン)氏の新体制安定化を急ぎたいとの思惑だろう。

 一方、オバマ米政権も、大統領選を前に外交面で得点を稼ぎたかったらしい。イランの核開発が進んでおり、朝鮮半島情勢で一定の前進をアピールしたかたちだ。

 双方とも、差し迫った国内事情から成果を急いだ面があるようだ。

 早速、合意内容の受けとめにずれが表面化した。プルトニウム型原子炉の無能力化でも合意したとする米側に対し、北朝鮮側は言及しなかった。

 合意がどこまで北朝鮮の核放棄につながるかは疑わしい。ウラン濃縮停止はあくまで一時的なものだ。恒常的な停止、放棄へどう導くかが問われよう。

 寧辺以外にも存在するとみられるウラン濃縮施設についても把握する必要がある。

 これまで北朝鮮は数々の合意をほごにしてきた。核カードで支援を引き出すやり口が繰り返される恐れもあろう。

 今回の合意をターニングポイントにするには、北朝鮮の瀬戸際外交をやめさせるよう、国際社会で包囲網を築きたい。

 ここのところ北朝鮮は自ら「核保有国である」と強調し、米国との直接交渉を優先させている。韓国も焦燥感を募らせている。

 李明博(イミョンバク)政権は強硬路線を貫いてきた。北朝鮮も今週始まった米韓合同軍事演習を受けて態度を硬化させている。今のところ、南北対話の糸口は見えないのが現状だ。

 日本も野田佳彦首相は「核、拉致、ミサイルの問題解決に向けた重要な一歩と歓迎する」と述べたが、単独で事態を動かすのは容易ではない。

 核問題をめぐる6カ国協議は2008年12月以来、中断している。再開を急ぐべきだろう。制裁解除や軽水炉提供の議論が先と主張してきた北朝鮮に対し、核の放棄へ向けて圧力を強めていきたい。

 地域の平和と安定へ、日本が北朝鮮と国交正常化を目指すとした日朝平壌宣言から、今年は10年の節目を迎える。

 今、両国であらためて宣言の趣旨を確認すべきだろう。そのうえで拉致問題解決へ向けた突破口を見いだしたい。

(2012年3月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ