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社説・コラム

『潮流』 「被災紙」からの提言

■論説委員 岩崎誠

 未曽有の大災害に、地元の新聞社はどう立ち向かえばいいか。仙台市に本社を置く河北新報が、一つの答えを出そうとしている。

 3・11で記者たちも被災し、配達網も失われる。極限状態の中で日々の新聞を届けた。テレビドラマにもなる迫真のドキュメント「河北新報のいちばん長い日」(文芸春秋)を読むと、胸が熱くなる。

 大震災1年を前に、新たに世に問うたのが新聞社独自の復興提言である。特集紙面にして4ページ。まちづくりや産業再生に向けた11項目の具体策を示す。

 論説委員長の鈴木素雄さんに話を聞いた。「国は何をしている、といった批判もいいが、留飲を下げるだけで思考停止に陥っていないか」。復興の道筋を読者と議論するのが、被災地の言論機関の務めだという。

 うなずけるアイデアが並ぶ。例えば大津波に見舞われた地区からの高台移住である。今の仕組みではもとの土地は手放すのが基本。なかなか前に進まないのは個人の所有権が絡み、合意形成が難しいからだ。

 そこで提案するのが自治体が長期間、一括で借り上げする手法。まとめて整備できるうえ、持ち主に地代が入って生活再建にもつながる。特別法などによって実現可能としている。

 「自治体相互支援」の法制化も目を引く。こちらは将来の災害への備えだ。

 今回の大震災では国、県の縦割りが十分機能せず、日ごろ縁のある市町村からの救援活動が力を発揮した。あらかじめ全国的に支援の組み合わせを決めておけば―。東北以外でも関心の高いテーマだろう。

 平野達男復興相にも提言を手渡したが「まだ色よい返事はない」と鈴木さん。紙面を通じて粘り強く実現を目指したいと意気込む。

 人々と寄り添い、地をはう報道を続ける「被災紙」。同じ地方紙として、どう後押しできるだろうか。

(2012年3月3日朝刊掲載)

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